研究課題
ヒト好中球はlipopolysaccharide(LPS)刺激に反応してtumor necrosis factor-α(TNF-α)を産生する。GM-CSF、IFN-α及びIFN-γはLPS刺激によって誘導されるヒト好中球からのTNF-α産生を増強し、G-CSF及びATPは抑制することをこれまで明らかにしてきた。本年度は、敗血症や心血管疾患などの様々な炎症性疾患の臨床経過に性差が認められることに注目し、若い男性と若い女性の末梢血好中球を用いて、LPS及びIFN-γ刺激により誘導される好中球からのTNF-α産生における性差について検討した。敗血症の予後においては、更年期前の女性の予後が男性よりも良好であることがこれまでの研究から示されている。女性の好中球に比べ、男性の好中球はLPS刺激に反応して多くのTNF-αを産生した。また、男性の好中球ではmitogen-activated protein kinases(ERK、p38及びJNK)及びphosphatidylinositol 3-kinase(PI3K)のより強い活性化が認められた。これらの分子のなかでERK、p38及びPI3KがTNF-αの産生に関与すると考えられた。LPS刺激によって誘導されるTNF-αの産生は、細胞をIFN-γで前処理することによって増強された。この増強作用(IFN-γのプライミング作用)は男性の好中球でより強く認められた。TLR4(LPSの受容体)の発現は男性の好中球でより強く認められ、その発現はIFN-γまたはIFN-γとLPSの共刺激によってさらに強くなった。一方、IFN-γ受容体の発現に性差は認められなかった。これらの結果は、男性の好中球が女性の好中球よりもLPS及びIFN-γ刺激に対する反応性が高いことを示している。これらの結果はLPS及びIFN-γに対する好中球の反応性における性差が敗血症における臨床経過の性差に部分的に関与していることを示唆している。
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