研究課題
奈良医大輸血部で実施している本邦の血栓性微小血管障害症(TMA)患者のコホート研究を通じて2012年末までに後天性・妊娠関連TMAを20例同定した。この中には死後の剖検で診断された例もある(J Obstet Gynecol 2013)。一方、本学倫理委員会承認下に、現在迄に本院で約200名の正常妊婦と6例のHELLP症候群例について連続的検体を集積し、von Willebrand 因子(VWF)と VWF特異的切断酵素であるADAMTS13活性を中心に解析した。その結果、「正常妊娠経過と共にADAMTS13活性は漸減し、VWF抗原量は著増する事から血小板血栓傾向にある」という成績を得た。しかし、これら正常妊娠経過中は顕著な血小板減少は観察されず、妊娠期特異的な血小板血栓調節機構の存在が改めて強く示唆された。また分娩直後のADAMTS13活性著減、またこの所見は分娩1ヶ月後には略正常化するという知見も得た。胎盤由来ADP 分解酵素(E-NTPase)はVWF依存性高ずり応力惹起血小板凝集を濃度依存性に阻害することから、このマイクロパーテイクルは正常妊娠経過中の血栓調節機構を担う物質と考えられる。これより胎盤からE-NTPaseを精製し、新旧合わせて計15種類のマウスモノクローナル抗体を作成した。これら抗体を用いて、血漿中の微量E-NTPaseの測定系を現在構築中である。次に、HELLP症候群では血中に「活性型 VWF」が出現するとの説があるが、そのEBMは示されていない。一方、重糖化蛋白質VWFからneuraminidaseを用いて脱シアル化した asialo-VWFはアゴニスト無く血小板に結合し、これを凝集させる人為的活性型VWFである。これよりasialo-VWFに対するモノクローナル抗体をHELLP症候群の病態解明に使用する事を考えており、この抗体を現在作成中である。
2: おおむね順調に進展している
約200名の正常妊婦から採取された経時的な血液検体を用い、ADAMTS13とVWF解析を通じて、これら2項目の動向を観察し得た。一方、妊婦血中に ADP分解活性の存在を確認しているが、測定に用いるマラカイトグリーン法は試料中の遊離リンを定量するため、特異的E-NTPase活性を検出するのに苦慮している。また、血中に遊離型として存在すると考えられるE-NTPase酵素蛋白は極微量と考えられるために、通常のELISAやwestern blotでの検出が困難である。これより、同酵素蛋白に対する高親和性モノクローナル抗体を作成し、これらを用いた flow cytometryや captured ELISAでの定量法を計画である。尚、前記のasialo-VWFに対するモノクロナール抗体は現在作成中である。
引き続き妊婦検体の収集を行い、順次ADAMTS13活性とVWF抗原量測定を実施するが、 今年度は特にE-NTPase抗原量・活性測定に焦点をあて解析を行う。E-NTPaseの抗原・活性測定方法については現在、構築段階であるELISA系を用いて行う予定であるが、血漿中のE-NTPaseは極微量であると考えられるため、ELISA系での測定が困難な場合には、フローサイトメーターによる測定系を考慮する。申請者らは、E-NTPaseは血管内皮細胞由来のマイクロパーティクル(EDMP)様の物質として血漿中に放出されると考えており、EDMPについては抗CD144抗体を用いた測定法が既に確立されている。そこで、申請者らが作成したE-NTPaseに対するモノクローナル抗体を蛍光標識し、これと抗CD144抗体の両者を用いることで、血漿中のE-NTPase測定系の確立を行う。さらに申請者らは、最近「非典型HUS(aHUS)の原因となる補体や補体調節因子であるcomplement factor H(CFH)等の蛋白-遺伝子解析アルゴリズムを完成した (Molecular Immunology 2013)。aHUS発作は妊娠によっても惹起されると考えられているので、これらの解析系の構築は今後の妊娠関連TMAの病態解析について更なる展開が期待出来ると考えている。また本研究の成果については、本年度に学会発表を行う予定である。
該当なし。
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