研究課題/領域番号 |
23591425
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
藤村 吉博 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (80118033)
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研究分担者 |
松本 雅則 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (60316081)
佐道 俊幸 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (50275335)
早川 正樹 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (30516729)
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キーワード | 妊娠関連TMA / HELLP症候群 / ADAMTS13 / 活性型VWF / 胎盤由来E-NTPase |
研究概要 |
奈良医大輸血部で実施している本邦の血栓性微小血管障害症(TMA)患者のコホート研究を通じて2013年末までに同定した後天性・妊娠関連TMA症例は22例であった。さらに本学倫理委員会承認のもと、正常妊婦129例、妊娠高血圧症候群(PIH)24例、HELLP症候群10例の検体の集積を行った。これらの症例についてADAMTS13活性、VWF抗原量の解析を行った結果、正常妊婦では妊娠週数の経過と共にADAMTS13活性は漸減し、VWF抗原量は著増する傾向が見られた。ADAMTS13活性値については3群間で顕著な差は見られなかったがHELLP症候群では他に比べ妊娠週数の経過に伴うVWF抗原量の増加が著しかった。 さらに今回、これらの妊婦血漿におけるADAMTS13の動態を等電点電気泳動(IEF)を用いて解析を行った。我々はこれまでの実験を通してADAMTS13はIEFにより主に3つの異なる電荷をもつ部位(バンドI:pI 4.9-5.6、バンドII:pI 5.8-6.7、バンドIII:pI 7.0-7.5)に分離され、バンドIは非結合型の、IIIはVWFと結合型のADAMTS13であることを確認している。また非結合型ADAMTS13は高ずり応力惹起凝集を初期より阻害するが、結合型ADAMTS13は凝集を後期に阻害するという知見も得ている(Hori Y et al, 2013)。妊婦検体のIEF解析では、正常妊婦では妊娠経過に伴い非結合型ADAMTS13の減少を認め、HELLP症候群では非結合型ADAMTS13の著明な欠損と結合型ADAMTS13の増加を認めた。その結果、HELLP症候群では血小板凝集における早期凝集の阻害が減弱している可能性が示唆された。胎盤由来E-NTPaseの活性測定やasialo-VWFに対するモノクロナール抗体の作成については現在検討中であり今後の課題であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正常妊婦、PIH、HELLP症候群について、ADAMTS13活性やVWF抗原量の継時的なデータを得ることができた。これまで妊娠期におけるADAMTS13の活性値については数多くの報告がなされてきたが、前述したようなIEFによるADAMTS13抗原の動態解析に着目した報告は無く、「HELLP症候群における非結合型ADAMTS13の欠損」は非常に興味深い知見であると言える。一方、胎盤由来E-NTPaseや活性型VWF(asialo-VWF)の解析については、今後さらなる実験条件の検討が必要であるが、E-NTPaseについては既にこれに対するモノクローナル抗体の作成に成功しており、活性型VWFについてもこれに特異的な反応を示すハイブリドーマを得ていることから今後さらなる実験の発展が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現在までに得られている妊婦検体の臨床経過を詳細に調べ、IEFにおけるADAMTS13抗原の変動との関連性を見出す。ADAMTS13の酵素活性については既存の活性測定法を応用し、非結合型ADAMTS13欠損血漿が活性の継時的変化にもたらす影響について計測する。さらにHELLP症候群症例における非結合型ADAMTS13欠損血漿が血小板凝集に与える影響を検証するため、妊婦血漿よりクリオ上清を作成し、高ずり応力惹起血小板凝集 (H-SIPA)を用いて検討することも考えている。血漿中のE-NTPase測定系の確立、asialo-VWFに対するモノクローナル抗体については準備が整い次第、妊婦血漿の解析に用いる。本研究の成果については結果がまとまり次第、順次、学会発表や論文報告を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
活性型VEFに対するモノクローナル抗体の作成に関して、活性型VWFのみを特異的に認識するハイブリドーマを得たものの安定化が難しく、当初の予定通り実験を進めることができなかった。また妊婦検体を用いたADAMTS13の等電点電気泳動法(IEF)を用いた動態解析により大変興味深い知見が得られたため、新たな実験の方向性が見出された。以上の理由により金額の使用状況が変化し、未使用額が発生している状況にある。 活性型VWFの抗体作成に必要である細胞培養液や器具の購入に使用する。また次年度も引き続きHELLP症候群患者の血漿を用いて、IEFによる解析を進めていく予定であり、これに使用するアガロース等が高額であるため、これら資材の購入費用にも使用したいと考えている。
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