研究課題
血友病A遺伝子治療:In vivoへのベクターの直接投与には染色体への組み込みがほとんどおこらないアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用い、ex vivoにて細胞へ遺伝子導入し再移植する遺伝子細胞治療には染色体への組み込みが必要であるためSIVベクターを用いることとした。ヒトに近い種属の血友病モデル動物(血友病Aクローンブタ)の作製に成功した。血友病Aブタは出生後から出血傾向を示し、遺伝子治療効果判定に優れたモデル動物であることが確認できた。非ヒト霊長類のカニクイザルを用いた血友病A遺伝子治療の前臨床実験を行うことを目的として、カニクイザルでのFVIII発現実験を開始した。血友病B遺伝子治療:マウスでの検討を終え、カニクイザルを用いた前臨床実験を遂行している。既感染に基づく抗AAV抗体は、AAVベクターを用いた遺伝子導入を阻害し、遺伝子治療の重要なリミティングファクターである。抗AAV8抗体陰性のサルにおいては第IX因子遺伝子搭載ベクターを末梢静脈から投与することで治療域に達する導入遺伝子由来の第IX因子発現がえられた。しかし、低力価であっても抗AAV8抗体があるサルでは同じベクターを用いても導入遺伝子由来の第IX因子発現は得られなかった。AAV8ベクターの遺伝子導入を阻害する中和抗体陽性サルであってもマイクロカテーテルを用いた門脈内ベクター投与を行い3頭のサルにおいて治療域に達する導入遺伝子由来FIX発現が得られ、抗AAV8抗体が存在していても遺伝子治療が可能であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
血友病B遺伝子治療研究は、非ヒト霊長類を用いた検討からAAVベクターを用いた遺伝子治療研究は、抗AAV抗体が存在しなければカニクイザルでも第IX因子遺伝子導入と発現はマウスよりも効率は悪いものの確立できた。同時に、既感染に基づく抗AAV抗体が遺伝子導入を強く阻害することが最大の問題であることが明らかとなった。カニクイザルでは野生型AAVに感染しAAVベクターに対する阻害活性を有する頻度が高い。ヒトもサルと同様に生活環境において野生型AAVに感染し抗体を保有する頻度が高く、既感染に基づく抗AAV抗体はAAVベクターを用いた遺伝子治療を阻害する重要なリミティングファクターであり、重要な課題である。本研究で非ヒト霊長類を用いこの抗AAV抗体の影響を回避しえるベクター投与法の開発が出来た意義は大きい。血友病B遺伝子治療研究に比較し血友病A遺伝子治療研究は遅れている。血友病Aモデル動物である血友病Aブタが研究に用いられるようになれば、血友病A遺伝子治療研究も進展が期待でき、血友病Aブタの確立は意義が大きい。
ウイルスベクターを用いた遺伝子治療研究では、ベクター投与後の免疫反応の検討が必要となる。ベクターにより遺伝子導入された細胞への免疫担当細胞の反応(リンパ球による排除)である。この反応はマウスではみられないことであり、カニクイザルを用いる。具体的には、ベクター投与カニクイザル個体より採取したリンパ球を抗原刺激しインターフェロンの産生をELISPOTアッセイにより検討する。また、ベクターの安全性に関して、遺伝子挿入変異の影響は多数個体を用いて短期間で結果が得られるマウスを用い検討する。具体的には、100匹程度のコホートで、マウスへ高純度のベクターを低用量から高用量まで投与し1-2年観察し腫瘍発生を検討する。血友病A遺伝子治療研究のため、血友病Aブタのコロニーを確立し、遺伝子導入実験を行う。
研究費は、ベクター作製のための分子細胞生物試薬・細胞培養試薬・培養用器具、免疫担当細胞の反応の検討に用いるELISPOTアッセイを行うためのサル特異的な検出試薬、血友病Aブタのコロニーを確立するため実験動物の購入や飼育費に用いる。
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