研究課題
平成23年度に山中4因子を発現するセンダイウイルスベクターを用いて血友病Bマウス(FIXノックアウトマウス)の線維芽細胞からiPS細胞を樹立した.平成24年度は,このマウスiPS細胞の染色体が正常であることを確認した.また,iPS細胞に優れたプロモーターを検索するためにCMV, CAG, EF1α,Ubcプロモーターの下流にEGFPを発現しうるレンチウイルスベクターを作成し感染させ,EGFPの発現効率を長期にわたり観察した.EGFPの発現はEF1α,Ubcプロモーターにより持続し,かつEF1αによるEGFP発現効率が高かった.次にEF1αプロモーターの下流でヒトFIXとEGFPを同時に発現しうるレンチウイルスベクターを作成した.これをFIXノックアウトマウスのiPS細胞に感染させ,EGFP発現効率のよいクローンを得た.上清中(24 well)で5-10%程度のFIX活性が得られた.このFIX因子を発現するiPS細胞,またはEGFPのみを発現するiPS細胞由来のマウスをテトラプロイド補完法により作製を試みた.E14程度まで胎児形成が観察され,このiPS細胞はキメラ系性能を持つことが明らかとなった.また,効率のよいFIX発現のためにヒトFIXをコドン最適化を行い,凝固因子活性が1.5倍程度に上昇する配列を同定した.さらに,血友病Aマウス骨髄より間葉系幹細胞(MSC)を樹立し,レンチウイルスベクターを用いFVIIIを強発現させた.この細胞の関節内投与が,血友病のQOLを最も阻害する因子である血友病性関節障害を抑制しうることが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
平成24年度も,ほぼ当初の計画通りに研究を進めることができた.血友病BマウスからのiPS細胞の樹立,iPS細胞に適したプロモーターの選択,また凝固因子発現効率の検討などiPS細胞に関した検討は概ね予定通り進んでおり,テトラプロイドのキメラ形成能の検討など,当初の予定よりも早めに進行している部分もある.一方,当初予定していた赤血球や血小板特異的なプロモーターをもちいた検討は,iPS細胞の段階で,効率のよいクローンを選択することが困難であるため,現段階ではユビキタスなEF1αプロモーターを用いて,凝固因子活性の高いiPS細胞クローンを選択した後に,造血幹細胞分化,造血幹細胞移植を行うのがよいと考えている.この点は,in vitroでの手技の確立までいたっておらず,引き続き検討を行う方針である.
血友病Bマウス由来iPS細胞のキメラ形成能までは確認したが,現段階で産仔は得られてない.その理由としてテトラプロイドの手法ではC57BL/6由来のマウスが得られにくいことがあげられる.今後は凝固因子発現iPS細胞由来マウスを樹立するために,精子欠損マウスの胚盤胞に胚盤胞補完法をもちいてiPS細胞由来の精子をもつマウスを得る.これを血友病マウスと交配させることで,完全なiPS由来マウスを得ることを計画している.このマウスの出血傾向,血中の凝固因子レベル,出血量の定量を行い,同マウスからの造血幹細胞移植が血友病マウスの出血傾向を改善するか検討する.また,iPS細胞由来マウス末梢血球の凝固因子の含有量を測定し,赤血球や血小板輸血が血友病マウスの出血傾向を改善するかも観察する.また,in vitroでiPS細胞を間葉系幹細胞(MSC),または軟骨前駆細胞に分化させ,血友病マウスの関節出血・関節障害が予防できるかどうか検討する.現段階では血友病Bマウスの検討が主であるが,引き続き血友病Aマウスでも同様の検討を行う.
平成25年度の研究費については,培地やウイルスベクター,実験動物の購入など,殆どを消耗品に当てる.現在 iPS細胞由来のマウスを作成しており,このキメラマウスの作成についても当該研究費を使用する.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
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