研究概要 |
β2-グリコプロテインI(β2GPI)は5つのドメインからなる糖タンパクで、抗リン脂 質抗体症候群における自己抗原として知られている。我々は、β2GPIがプラスミンによって限定分解を受けたニックβ 2GPIが、そのドメインVを介してプラスミンの自己分解産物で強力な血管新生抑制物質であるアンジオスタチンに結合 、その作用を阻害する事を報告した (Nakagawa et al., Blood 2009)、血栓部位ではニックβ2GPIが血管新生に働く可能性が示唆された。一方で, β2GPI自体にはそのドメインIを介したVEGF依存性の血管新生抑制作用が報告されており、ニックβ2GP Iの作用を複雑なものにしている。本研究ではニックβ2GPIドメインVをリコンビナント蛋白として作製し、血管新生効果が得られるかどうかを検討することを目的とした。 これまでに、リコンビナントβ2GPIドメインVを大腸菌を用いて大量に作製した。インタクト・ニックβ2GPIドメインVを用いて、分子間相互作用解析によりアンジオスタチンとの結合試験を行い、ニックβ2GPIドメインVがアンジオスタチンに対して用量依存性に結合することを示した。 当該年度には、得られたニックβ2GPIドメインVを用いてその機能を明らかにすることを目的とした。ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を用いた増殖アッセイの結果、HUVECに対して軽度の増殖抑制能を有した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、HUVECを用いたcell migration assay, HUVECと線維芽細胞を共培養するin vitro angiogenesis assay, さらにはマトリゲルを充填したシリコンチューブをマウス皮下に埋め込むin vivo angiogenesis assayを用いて血管新生に対するニックβ2GPIドメインVの作用を検討する。 血管内 皮細胞の遊走への影響を評価する目的でMatrigel Invasion chamberを用いてHUVECの遊走実験を行い、アンジオスタチン存在下にニックβ2GPIドメインVを添加することで アンジオスタチンによる内皮細胞遊走抑制効果が阻害されるかどうか確認する。 HUVECと線維芽細胞をVEGF, FGF存在下に共培養するin vitro tube formation Assayを用いて、ニックβ2GPIドメインVがアンジオスタチンの管腔形成抑制効果を阻害し、結果的に血管形成を促進するかについて検討する。 マウス皮下における細胞外基質への血管進入を定量的に評価できるアンジオリアクターを用いた in vivo の検討を 行い、アンジオスタチンによる血管新生抑制作用をニックβ2GPIドメインVが効果的に阻害しうるかどうかを検討する.。 次に、 実際に血管内に血栓が形成された際にニックβ2GPIドメインVが側副血行路の形成を促すかどうかを検証する。マウス脳梗塞モデル (Choudhri et al., J exp Med.1999)を用いて その血管新生促進効果を評価する。これらの虚血・再潅流モデルにおいては、ニックβ2GPIドメインVを尾静脈より静注してその血栓 部位における血管新生が促進されるかどうかを組織学的に観察する。
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