研究概要 |
これまでベーチェット病(BD)の病態には自己免疫と自己炎症の両面が関与していると考えてきた。2010年、我々はゲノムワイド研究よりHLA-B51に加え、IL10、IL12RB/IL23Rを疾患感受性遺伝子として同定したが(Remmers EF, Takeno M, et al, Nat Genetics, 2010)、この成績は同時に報告されたトルコBD患者との成績ともほぼ一致していた。さらにインプテーションン法を用いた詳細な解析により、新たにCCR1、STAT4、KLRC4、ERAP1を新規の疾患感受性遺伝子として同定した(Kirino Y, Takeno M, et al, Nat Genetics, 2012)。特にERAP1とHLA-B*51はリスクに対して相乗効果(エピスタシス)を認め、ERAP1が疾患特異的な自己抗原提示に関与する可能性が示唆された。興味深いことに、BDのERAP1リスクアレルは強直性脊椎炎(HLA-B27)、乾癬(HLA-Cw7)など他のHLA-クラスI疾患では疾患抵抗性に寄与している。自己抗原提示過程に至るERAP1の関与のプロセスを明らかにすることはBDのみならず、HLAが関連する多くの疾患の病態解明のブレークスルーとなる可能性がある。さらに、頻度の低い多型の解析を進め、TLR4, NOD2、MEFV(トルコ人のみ)などが疾患遺伝素因であることを明らかにした(Kirino Y, Takeno M, et al, Proc Natl Acad Sci, 2012)。これらの結果はBDの発症にTh17を軸とした自己免疫と病原微生物に直接反応する自然免疫が重要であることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は「BDの病態はIL-10/HO-1炎症制御系の破綻による自然免疫系の活性化に基つく過剰な炎症性サイトカインの産生と、HO-1発現低下に伴うI型IFNの産生不全およびIL-23Rの遺伝素因に基づくTh17の分化促成により形成される」との仮説を検証することであり、BDの病態を自己炎症、自己免疫の両面から解明することにある。概要で述べたように、BDの遺伝素因の解明という点で大きな成果をあげ、その病態に自己免疫と自己炎症の双方が関与しているという仮説はほぼ証明された。BDのIL-10/HO-1炎症制御系の異常とGWASで同定された各々の感受性遺伝子産物との関連については現在、解析中である。 一方、近年、HO-1発現細胞はM2型マクロファージ(Mφ)であり、このポピュレーションはIL-10を産生し、抗炎症作用を持つことが明らかにされている。したがって、本研究の仮説である「BDにおけるIL-10/HO-1炎症制御系の破綻」はM2 Mφの量的、質的異常に起因する可能性がある。現在、BD患者のM2Mφの量的指標となる血清可溶性CD163および血清HO-1を解析中であるが、preliminaryな結果ではその頻度がBD患者で低下している可能性がある。 また、HO-1レプレッサーのBach1 欠損マウスを用いた解析を通じて、HO-1発現誘導手段としてBach1が標的分子となりうることを示し(Hama M, Takeno M, et al, Arthritis Rheum 2012)、本研究の最終目標であるベーチェット病患者のHO-1の発現不全の是正治療応用できる可能性がある。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の課題はGWASで同定された各々の感受性遺伝子産物のBD病態を明らかにすることであり、その量的、質的異常を検討する必要がある。特に本研究の仮説の「IL-10/HO-1炎症制御系の破綻」がM2 Mφの量的、質的異常に帰着する可能性が出てきたので、その異常とIL-10/HO-1の発現、産生との関連を解明していく。さらに、GWASで同定された各々の感受性遺伝子産物のうちマクロファージ機能に関与するTLR4, NOD2などについても、質的、量的異常を明らかにする。特に、TLR4については、BD患者でその発現が恒常的に亢進していることを報告しており(Kirino Y, Takeno M, et al, Arthritis Res Ther. 2008)、M2 MφとM1Mφの両サブセットに分けて解析を進めていく予定である。さらに、これらの機能とIL-10/HO-1制御系の関連を解明し、病態を制御しうる最も効果的な治療標的を同定し、新規治療法を開発する。
|