研究概要 |
申請者はSLEモデル(NZB x NZW)F1マウスにおいて、B細胞系の寛容破綻とCD4陽性T細胞のポリクローナルな異常がそれぞれ、抑制性Fc受容体であるFcgr2b遺伝子を中核とする遺伝子群と、主要組織適合遺伝子複合体(MHC) class II遺伝子を中核とする遺伝子群の、異なるふたつの多遺伝支配によって規定され、さらにこのふたつの相互作用によって、SLE発症をもたらす枢軸的異常シグナル経路が規定されている可能性があることを明らかにした。本研究ではこれらの研究成果に基づき、自己免疫応答を基礎づけるcomponent phenotypeに着目した量的遺伝学の方法を用い、SLE発症を規定する枢軸的異常シグナル経路の本質を明らかにする。 平成25年度は、(NZB x NZW)F1系マウスについて、未だ自己免疫病態が現れる前の2か月齢と、SLE病態を示している8か月齢の雌マウスの脾臓細胞を対象とし、DNAアレイを用いて網羅的遺伝子発現解析を実施した。その結果、このマウスの加齢に伴う重篤なSLE病態の出現に伴い、多数の遺伝子発現に異常が観察された。リンパ球の機能に係わる遺伝子発現については、Fcgr4, Try5, Sycn, 等の遺伝子の転写について4倍以上の増加、Trat1, Dapl等の遺伝子について、約1/4以下への減少が認められた。さらに(NZB x NZW)F1マウスを双方の親系マウスに交配して退交配マウスを得てこれらの候補遺伝子の転写産物をRT-PCRによって測定するとともに、各マウス個体のゲノムDNAのマイクロサテライトDNA多形を遺伝子マーカーとして着目し、各候補遺伝子の転写がどのような遺伝支配を受けているかを検証中である。これらの実験データと、免疫系のシグナル伝達に関する先験的情報とを総合し、SLE発症を規定する枢軸的異常シグナル経路の本質を分子論的に明らかにする作業を現在継続している。
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