研究課題/領域番号 |
23591451
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
斉藤 和義 産業医科大学, 医学部, 准教授 (30279327)
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研究分担者 |
河野 公俊 産業医科大学, その他部局等, 学長 (00153479)
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キーワード | リモデリング抑制 / Wnt10 / 膠原病 |
研究概要 |
膠原病の組織リモデリングにおける上皮間葉転換および血管内皮間葉転換の2種の間葉転換の病態への関与、調節機序の解明とその制御による治療創生を目的として研究を行った。膠原病において間質に顕著な線維芽細胞・血管内皮細胞の増成が認められる組織におけるWntファミリー発現状況を病理学的に検討し、関節リウマチ、強皮症、皮膚筋炎、血管炎症候群に認められる間質性肺炎、肺高血圧症における血管病変の生体および剖検病理試料におけるWntファミリー発現細胞、間葉転換細胞を免疫組織学的染色にて同定し単位面積あたりの発現細胞数、存在範囲、周囲細胞との分布などを解析した。評価においては、組織スライドをNanoZoomer Digital Pathologyを用い、標本面積に占める間葉転換細胞、Wntファミリー発現細胞の分布などを検討した。間葉系細胞マーカーとしてはαSMを,上皮・血管内皮系細胞マーカーとしてはβ-cateninを用いた。また、上皮間葉、血管内皮転換と密接に関与し、血管リモデリングと閉塞、肺・皮膚硬化に関わるTGFβ発現も検討した。 その結果、上記の膠原病リウマチ性疾患の組織においては、線維化・血管リモデリングの進行を認めている部位に組織にはmyofibroblastの増生が認められた。この組織をWnt10に対する抗体で組織染色したところ、血管内皮に加えてmyofibroblastも染色された。すなわち、これらのWnt10陽性myofibroblastが組織における線維化病態に関与している可能性が示唆された。また、原病の種類によりWnt10陽性myofibroblastの単位面積あたりに存在する細胞数が異なり、細胞密度と線維化病態は必ずしも相関していなかった。また、耳下腺をはじめとした組織に強い線維化病変をもたらすIgG4関連症候群組織での検討においても同様の所見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膠原病リウマチ性疾患の線維化病態の形成におけるWnt10陽性myofibroblastの関与が確認された。この点の確認が必須であり慎重に評価するために時間を要した。今後は、in vivoでの検討、さらにはWnt10ノックアウトマウスの作成を行っており、これを用いた実験的間質性肺炎、皮膚硬化に対する同遺伝子の関与を検討へと展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
疾患病理組織での解析で得られた事実をもとにin vitroで滑膜細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、間葉幹細胞などとWntファミリー強制発現細胞共培養して、in vitroにおける間葉転換の再現を確認する。その際に間葉転換に関わるWntシグナル伝達系の決定、転換細胞への生存シグナルや細胞周期への影響、血管新生、間葉転換にかかわる液性因子、細胞表面機能分子、シグナル伝達系、転写因子活性化への関与等を明らかにする。また、これまでに得られた情報をもとに、in vitroで上皮間葉転換・血管内皮間葉転換に対する薬剤の効果を検討するとともに、ヒト臓器移植SCIDマウスを用いた線維芽細胞・血管内皮細胞-間葉形質転換におけるex vivoでの解析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
膠原病リウマチ疾患における間質性肺炎、肺高血圧症、糸球体硬化といった臓器病変におけるリモデリングに関して、カルシニューリン阻害剤、STAT阻害剤、イマチニブ、プロスタサイクリン誘導体、エンドセリン受容体拮抗薬などが抑制することが臨床的にあるいは一部基礎的に報告されている。この機序としてEMTの抑制が推定されており、これらの薬剤の効果を2.で確立したin vitroの系を用いて検討する。また、新規治療の可能性を探求する。すなわち、これまでに得られた間葉転換に関わる液性因子、細胞表面機能分子、シグナル伝達、遺伝子活性化経路のいずれかを抑制する可能性のある抗体、低分子化合物をこのin vitroの系を用いてスクリーニングする。さらに、ex vivoの系につなげる。
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