研究課題/領域番号 |
23591474
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山下 浩平 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80402858)
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キーワード | 好中球 / 細胞外トラップ / 微小血管障害 / 造血幹細胞移植 |
研究概要 |
好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)は活性化好中球がクロマチンを細胞外へ放出して崩壊する現象で、アポトーシス・ネクローシスと並ぶ好中球の新たな細胞死(NETosis)として知られている。NETosisに至った好中球周囲の細菌はクモの糸に絡まるように捕えられ、放出したクロマチンに含まれる抗菌顆粒蛋白により殺菌される。このように、NETsは好中球細胞外殺菌機構の中心をなし、生体防御に重要な役割を果たすと考えられるが、その強い傷害作用のため、種々の炎症性病態や血管内皮細胞傷害を介した血栓症などの病態形成に深く関与すると考えられるようになった。 我々は、先ず、これまで不明な点が多かったNET形成機構に焦点を当てて研究を進めたところ、活性酸素の一種である一重項酸素がNET形成に必要であることを明らかにし、昨年度論文発表した(Nishinaka Y et al. BBRC, 2011)。今年度は、感染症におけるNETsの役割を明らかにする目的で、同種造血幹細胞移植後の感染症発症と血清NETs値を解析した。その結果、血清NETs値は、感染症発症とに相関を認めなかったが、重篤な移植後合併症の一つである移植関連微小血管障害(TA-TMA)の発症と有意な相関を認めた。一方、急性GVHDの発症とは相関を認めなかった。解析した同種移植患者90例のうち、11例がTA-TMAをきたし、8例が死亡した。剖検した2例の腎糸球体の血管内にNETsを検出し、TA-TMA病態形成における強い関連を示した。さらに、移植前処置(day-10~-7)と移植当日(day0)における血清NETs比が、その後のTA-TMAの発症予測因子となり得ることを明らかにした。 関連する血液内科学において極めて重要な所見であり、今後の更なる研究の進展が望まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)の形成機構の解析を行い、活性酸素の一種である一重項酸素がNET形成に重要であることを明らかにし、論文報告することができた。 今年度は、NETsの感染症病態における役割を明らかにする目的で、同種幹細胞移植後の患者血清を用いて解析したところ、感染症との相関を示すことができなかったが、同種移植後の重篤な合併症の一つである移植後関連微小血管障害(TA-TMA)の病態や発症にNETsが関与する可能性を示すことができた。 NETsは血管炎や全身性ループスエリテマトーゼスなどの自己免疫疾患や血栓症などの病態形成に関与することが報告されており、今回見出した結果は、感染症内科学に関連する血液内科学において極めて重要な所見と考えられ、今後も引き続き解析を進める必要があると考える。 このように、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、我々のバックグランドである同種造血幹細胞移植に焦点を当てて、好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)が血管内皮細胞障害を介して血栓形成をもたらす可能性を明らかにすることができた。今後は主に細胞生物学的手法を用いて、この現象の分子学的解析を行うとともに、血管内皮細胞障害を緩和する方法を模索していきたいと考える。 また、IgG4関連疾患などの免疫疾患患者検体を用いたin vitro実験などを行うことにより、免疫/炎症性疾患におけるNETsの役割について解明していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き、好中球細胞外トラップ(NETs)を観察する目的で、蛍光試薬・尿酸血症やphorbol myristate acetateなどの化学物質などの試薬や、チューブ・ディッシュなどの消耗品を中心に研究費を使用する。また、NETsと炎症性病態との関連を明らかにする目的で、種々のサイトカインELISAキットを購入する。 「その他」に区分される研究費として、大学施設の電子顕微鏡利用料、動物実験施設利用料、論文投稿料、英文校正料などに使用する。 その他、採血への協力者への謝金や研究成果を発表するための学会参加費用にも使用する予定である。
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