研究概要 |
好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)は活性化好中球が細胞質に存在する抗菌蛋白を巻き込みながらクロマチンを細胞外へ放出して崩壊する現象で、好中球の新たな細胞外殺菌機構として広く知られるようになった。一方、その強い傷害作用のため、種々の炎症性病態や血管内皮細胞傷害を介した血栓症などの病態形成に深く関与することが報告されている。 我々は、先ず、同種造血細胞移植後の重篤な合併症の一つで、その病態が未詳である移植関連微小血管障害(TA-TMA)におけるNETsの役割について解析を行った。その結果、移植前の血清NETs高値がTA-TMA発症と正の相関にあることやTA-TMA患者2例の腎糸球体の血栓形成部位に一致してNETsが存在することを明らかにし、血清NETs値がTA-TMA発症の良いマーカーになる可能性並びにTA-TMAの病態形成にNETsが関与する可能性を示した(Arai Y et al. Biol Blood Marrow Transpl, 2013)。 次に、高尿酸血症による血管内皮細胞傷害にNET形成が関与すると仮説を立て、尿酸刺激によるNET形成能を検討した。その結果、5 mg/dl以上の高濃度の尿酸がヒト好中球に作用し、NF-kBの活性化を介してNET形成を誘導することを明らかにした。また、活性酸素産生能が欠如している慢性肉芽腫症患者好中球を用いた検討などから、この尿酸誘導NET形成は活性酸素産生非依存的であることが明らかにした。この現象は高尿酸血症による血管内皮細胞傷害機序の一つと考えられ、NETsが高尿酸血症と血管内皮細胞傷害とを結ぶmissing linkである可能性が示された(Arai Y et al. BBRC, 2014)。
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