ほとんど例外なく,鉄はすべての微生物にとっての必須栄養素である.したがって,鉄を捕捉する物質は,細菌の生育に影響を及ぼす可能性が高い.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対するオクチルガレートのβ‐ラクタム剤感受性増強効果(アイルスマー効果)を解析した結果,マンガンの添加はアイルスマー効果を減弱させるが,鉄の添加はその効果を増強した.そこで,メタルイオンに対してキレート作用を有する化合物を対象として,抗菌活性やオキサシリンとの併用におけるアイルスマー効果発現の有無を指標としたスクリーニングを行った.その結果,供試した化合物群の多くは抗菌活性,アイルスマー効果ともに認められなかったが,鉄に対するキレート能を有する化合物群のなかから強い抗菌活性を示す複数の化合物を見出した.これらの化合物は,耐性菌,感受性菌の双方に対して殺菌的な抗菌活性を示したが,アイルスマー効果は認められなかった.さらに,抗菌活性は示さなかったが,効果の程度に差はあるが明らかなアイルスマー効果が認められる複数の化合物もまた見出した. これらの化合物群は,抗菌剤としてではないが,すでに他の効能に基づいて医薬品として認可されており,実際に使用されていることから,安全性の面では問題はないと推察され,薬剤耐性菌に対する新規な抗菌薬として,さらにはその開発のためのリード化合物として極めて有望であると思料する(現在特許申請準備中).
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