インフルエンザ感染重症化で認められる末梢の血管内皮細胞の障害に基づく異常な血管透過性亢進状態は、ウイルス感染による血管内皮細胞間の結合破綻に基づいている。血管内皮細胞では、接着結合(アドヘレンスジャンクション)破綻が、血管内皮細胞の透過性亢進に重要となってくる。これまでの我々の研究から、先ず、インフルエンザ(PR8)に感染すると血管内皮細胞内のGSK3 betaが活性化され、基質の一つであるアドヘレンスジャンクションの裏打ち蛋白質である beta-cateninをリン酸化する。beta-cateninがリン酸化されるとこのプロテアソームによる分解が誘導される事でその発現が低下し、VE-cadherinとの結合性を失う。これによって血管内皮細胞間の接着結合が破綻し、血管内皮細胞障害がおこる可能性が示唆された。本研究においては、昨年度までに、上記プロセスの中の、インフルエンザ感染によるGSK3 betaの活性化並びにbeta-cateninのリン酸化に着目し解析を行った。その結果、ウイルス感染によるGSK3 betaに依存したbeta-cateninのN末のSer33/37/Thr41のリン酸化が、プロテアソームによる分解を誘導し、血管内皮細胞間のアドヘレンスジャンクションを崩壊させ血管内皮細胞間の透過性の亢進を引き起こしている事が明らかとなった。 最終年度では、今後の推進方策に従いこれらin vitroで得られた知見が実際にマウスを用いた実験で認められるかについて動物実験にて検証をおこなった。その結果、インフルエンザ(PR8)感染マウスにおいて、GSK3betaの活性化及びbeta-cateninの分解による発現低下が確認された。これらの結果は、アドヘレンスジャンクションを構成するbeta-cateninの感染によるGSK3beta依存的な分解が、重症インフルエンザ感染における血管内皮細胞間の透過性亢進機構の重要なメカニズムであることを示唆している。
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