研究課題/領域番号 |
23591478
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
松崎 茂展 高知大学, 教育研究部医療学系, 准教授 (00190439)
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研究分担者 |
竹内 啓晃 高知大学, 教育研究部医療学系, 講師 (90346560)
内山 淳平 高知大学, 教育研究部医療学系, 助教 (20574619)
大畑 雅典 高知大学, 教育研究部医療学系, 教授 (50263976)
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キーワード | ピロリ菌 / バクテリオファージ / 吸着タンパク質 / 溶菌酵素 |
研究概要 |
本研究は、バクテリオファージ(ファージ)の溶菌活性を利用するピロリ菌除菌法の開発を目的としている。 我々が分離し解析を進めているピロリ菌ファージKHP30は全く新規のファージであり、また予備実験から溶菌メカニズムも既報のファージとかなり違っていると予想された。そのため、本ファージの溶菌メカニズムを明らかにするために、詳細なビリオン解析、ライフサイクル、およびゲノムの解析を行なった。ファージ KHP30は、尾部を有しない球形ファージであることが分かっていたが、ファージ粒子をクロロフォルムで処理すると活性が著しく低下することが明らかになり、更にクロロフォルム抽出物の薄層クロマトグラフィーにより数種の脂質スポットが観察されたことから、脂質を含有していると考えられた。また、KHP30が感染したピロリ菌の超薄切片の透過型電子顕微鏡観察により、菌体内で形成された子ファージ粒子が菌体外に放出される際に、ピロリ菌の細胞表層の1カ所に子ファージが集まり、その部分の細胞壁が破壊され、子ファージ粒子が放出される様子が観察された。このプロセスには、KHP30ゲノム上にその遺伝子が存在する溶菌タンパク質ホリンが関与していると予想される。また、本ファージは溶菌サイクルに加え、ある菌株ではそのゲノムがプラスミドDNAとして菌と共存する、所謂、偽溶原性の状態を取ることが明らかになった。また、KHP30 のDNA塩基配列を公的データベースに対して相同性検索を行なうと、種々のピロリ菌株ゲノムの中にKHP30 DNA様の配列が、種々の長さで存在していることが明らかになった。これらの結果は、J. Virol.誌と Appl. Environ. Microbiol.誌に掲載された。以上のファージKHP30に関する基本情報をもとに、除菌法への応用を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究遂行中のピロリ菌ファージ KHP30は新規ファージであるため、吸着から子ファージの放出までの感染・溶菌プロセスは、既報の尾部保有ファージの場合と想像以上に異なっていた。しかし、本研究を通じてその生活環全体の概要、およびゲノム情報を明らかにすることができたため、溶菌関連タンパク質を利用するピロリ菌除菌法開発のための、基本情報を得ることができた。それゆえ、外膜透過型の融合溶菌酵素を作成するための足場が固まったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ピロリ菌ファージ KHP30の吸着関連タンパク質を特定する。これまでに、殆どのファージKHP30のビリオン構成タンパク質およびその遺伝子を特定している。各ビリオンタンパク質遺伝子をベクターにクローニング後、大腸菌で発現させ、Coセファロースカラム等を利用し精製する。それらの精製タンパク質をピロリ菌と混合し、低速遠心で菌を遠沈する。吸着タンパク質の場合、上清中のタンパク質量が減少するため、上清中の残存タンパク質量を計測することにより吸着タンパク質を特定する。 (2)ファージKHP30が保有する溶菌関連タンパク質を調製する。溶菌関連タンパク質の1つであるホリンタンパク質をコードすると予想される遺伝子を特定している。通常、ファージゲノム上に溶菌関連遺伝子はクラスターとして存在していることが多いため、ホリン遺伝子およびその近傍の遺伝子によりコードされるタンパク質を、同上の方法により調製する。 (3)吸着タンパク質および溶菌関連タンパク質を種々の架橋剤を使用して連結させ、ピロリ菌に対する溶菌活性を検討する。 (4)溶菌活性が確認された吸着タンパク質-溶菌関連タンパク質の結合タンパク質について、反応液中の塩濃度、補酵素等について検討し、至適溶菌条件を検討する。 (5)マウス感染モデルを使用し、融合酵素投与による除菌活性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ファージ KHP30 の吸着タンパク質および溶菌関連タンパク質の精製のためのCo, Ni セファロース、大腸菌培養用培地、タンパク質架橋剤等の試薬類を購入する。また、成果発表のための論文校正、掲載料、および学会発表旅費等に使用予定である。
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