研究課題/領域番号 |
23591481
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
和田 裕雄 杏林大学, 医学部, 講師 (50407053)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 喫煙 / マイコプラズマ / 肺 / 分子病態 / マクロライド |
研究概要 |
本研究は、肺炎マイコプラズマ肺炎が慢性閉塞性肺疾患chronic obstruictive pulmonary disease (COPD)を増悪させる原因となる、という臨床的観察より、両者に共通の分子メカニズムが存在するのではないかと考え、両者のマウスモデルを作出し、解析することにより、COPD発症・増悪の分子メカニズムを解明することが目的である.[1]喫煙曝露マウスモデルの作出 我々は喫煙曝露マウスモデルを確立してきた。本マウスは、短期間の喫煙曝露であるにもかかわらず、ヒトCOPD患者の炎症と類似の分子病態を作り出すことが可能であることを示してきた。さて、マクロライド投与はヒトCOPD患者の予後を改善する作用があることが示されているが、われわれのマウスが薬物スクリーニングにも応用できることを示すため、その効果を検討した。その結果、マクロライド投与には炎症性サイトカインの合成を抑制する作用が見られた。昨年の研究では、我々のマウスモデルとヒトCOPD患者とで、炎症反応をマクロライドが抑制的に修飾しうる、という共通の現象が示された。[2]マイコプラズママウスモデルの作出 我々は、マイコプラズマの菌体成分を用いてマイコプラズマ肺炎類似の状態となるマウスモデルを作成してきた。アジュバントを用いたマウスモデルでは、気管支に沿って炎症を認め、重症のマイコプラズマ肺炎と類似していることが示された。本マウスにマクロライドを投与し、網羅的にサイトカインを測定すると、二通りのパターンになることが示された。 以上の研究により、肺炎マイコプラズマとヒトCOPDの共通の分子メカニズムがマクロライドにより修飾される可能性が示された。これは、マクロライドの抗炎症作用、炎症修飾作用の分子メカニズムを解明することにより、COPDの発症メカニズムを解明できる可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はマイコプラズマ肺炎とヒトCOPDのマウスモデルの(1)確立の観点 (2)解析を行うことである。本マウスモデルは、短期喫煙曝露であるにも関わらず、サイトカインの動きやクロマチン修飾などのメカニズムがヒトCOPDに類似していると考えられた。これまでにも、さらに、動物モデルの臨床応用に関する最大の利点は、薬物投与による薬物スクリーニングや遺伝子改変マウスの応用による遺伝子スクリーニングが行える点である。我々は、マイコプラズマ肺炎マウスモデルを用いて、マクロライド投与が同肺炎モデルに与える影響を検討した。さらに、喫煙曝露マウスモデルでは、マクロライドおよびSRT-2172(サーチュインの誘導体)の炎症修飾作用を検討した。以上の通り、薬剤投与のスクリーニングの可能性を示してきた。これまでの解析で肺や気管支肺法洗浄液中のタンパク濃度、mRNAの発現などを検討してきた。さらに、以上の成果を国内外の学会(日本呼吸器学会、European Respiratory Society 2011)、国際英文誌(Transl Res 2011, Results in Immunolgy 2011)に報告し、高い評価を得つつある。 今後は、上記のマウスモデルに遺伝子改変マウスを応用することにより、遺伝子スクリーニングに使用可能かどうかを検討する方針で、遺伝子改変マウスの生産を開始、予備的検討を行っている。 以上の通り、(1)これまでに両マウスモデルを確立し、(2)薬剤スクリーニングを行った。(3)さらに、これらのデータは、英文雑誌に連載された。(4)次のステップである遺伝子改変マウスへの応用も予備的検討を行っている。 よって、研究はおおむね順調に進展していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
[目的]我々はこれまでに喫煙曝露マウスモデルを作成してきた。また、本マウスを用いて、ヒトCOPDの薬剤スクリーニングが可能であることを示してきた。次の解析手法として、遺伝子改変マウスを用いた遺伝子スクリーニングにも応用可能かどうかを検討する。本研究では、マウスモデルの分子病態が遺伝子操作の結果、変化することから、標的分子が明らかになるだけでなく、各々の遺伝子の役割が判明すると予想される。 [方法]遺伝子改変マウスおよび野生型マウスに喫煙曝露を行う。気管支肺法洗浄液 bronchoalveolar lavage (BAL)からenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法にてタンパク濃度を、また、肺組織を採取し、定量的RT-PCRにて遺伝子発現を検討する。遺伝子改変マウスと野生型マウスを比較することにより、該当遺伝子が (1)喫煙曝露で役割を果たしているかどうか、(2)喫煙曝露でどのような細胞内シグナル伝達に影響を及ぼしているか、を示すことができると考えられる。 [予想される結果]炎症抑制性遺伝子を欠損したマウスに喫煙曝露を行うと、該当遺伝子の発現欠損により炎症が賦活化されうことが予想される。 [遂行する際の課題]本研究を遂行うるにあたり、マウスサンプルからの解析可能であるタンパクやmRNAが限られてくること、さらには、培養細胞ではないため、解析の手法も制限されることが予想されること、また、遺伝子改変マウスは遺伝子間のredundancyの結果、期待する差が得られない可能性がありうる。その一方で、タンパク就職による活性化、酵素の機能などは遺伝子欠損により検討可能となると思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は炎症抑制性遺伝子であるIL-10が喫煙曝露関連炎症に与える影響を検討する予定である。本研究を遂行するために必要な費用として、(1)マウスの購入・飼育費 (2)キット・試薬類の購入費 (3)研究発表に要する費用、が考えられる。 具体的には、(1)マウスの購入・飼育費・・・遺伝子改変マウスの飼育、繁殖等に要する費用で、年間45万円程度。 (2)キット・試薬類の購入費・・・年間150万円程度を予定。 (3)研究発表に要する費用 海外学会へ発表予定、渡航費は20万円程度。以上より、180万円および繰越35万円、計215万円の研究費を申請いたします。
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