研究課題/領域番号 |
23591484
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
太田 康男 帝京大学, 医学部, 教授 (80292936)
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キーワード | C. difficile / フラジェリン / TLR5 / CDI / tcdB |
研究概要 |
C. difficileは、病院内で発生する下痢症の中でもっとも頻度の高い起炎菌である。C. difficile感染(CDI)を防ぐためには、C. difficileが腸管へ定着するのを防ぎ、無症候性のキャリアを断つ必要があると考えられる。しかしながら、C. difficileが腸管へ定着する分子機序および腸管に定着し、免疫寛容(キャリア状態)を維持する分子機序については、ほとんど不明のままである。我々は、C. difficileのフラジェリンを単離し、TLR5を介して腸管上皮細胞を活性化すること、およびその活性化機序の一端を解明し、論文として発表した。 しかしながら、ここで問題となるのは、C. difficileのフラジェリンがCDIの発症にどのように関わるか、すなわち増悪因子なのか抑性因子なのかという点である。腸管上皮細胞モデルとして確立した、単層培養した腸管上皮細胞にC. difficileトキシンであるtcdBとC. difficileフラジェリンの両方あるいは単独で細胞を刺激し、ケモカインIL-8とCCL20の産生を検討した。tcdBとC. difficileフラジェリンの両方で刺激を行うと、それぞれの単独刺激に比べ、これらのケモカイン両方とも産生が著明に増加した。さらに腸管上皮細胞のTLR5の発現量を減少させると、これらのケモカインの産生も減少した。従って、C. difficileフラジェリンはTLR5を介して、CDIにおいて少なくとも炎症の亢進、増悪に関与していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の一連の研究で、C. difficileフラジェリンを単離し、TLR5を介して腸管上皮細胞を活性化すること、およびその活性化機序の一端を解明し、その成果を論文発表出来た点では、進歩が認められる。ただこの経過において、米国のグループが、マウスモデルで、サルモネラのフラジェリンで刺激を行い、C. difficile感染させると、CDIの程度が抑制されるという論文(Infection and Immunity, 2011)を公表した。そのため、C. difficileフラジェリンがはたしてCDIの発症にどのように関わっているかという点を解明する必要性が生じた。我々はin vitroの系ながら、C. difficileフラジェリンは主としてTLR5を介して、炎症の増悪に関与している可能性を検証した。CDIの発症には、トキシンが中心的な役割を果たしていることはいうまでもないが、それに加えて、フラジェリンも一定の役割をしていることを明らかに出来た。もちろん最終的にはin vivoの系での評価が必要であり、この点はまだ十分とはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、C. difficileと腸管内常在菌との共存による腸管上皮細胞の細胞障害性の有無を検討し、細胞障害性の程度とC. difficileトキシン産生量との相関を解析することを最終目的としている。特に、C. difficileフラジェリンに着目し、その病態制御にかかわる分子機序の解明が本研究の主眼である。我々は、従来の研究においてin vitroの系ながら、C. difficileフラジェリンとトキシンB(tcdB)と同時に作用させると、TLR5を介して腸管上皮細胞の炎症を著明に亢進させ、おそらく増悪因子として作用している可能性が高いことを見出した。今後はさらに本研究を発展させ、他の細菌との共存モデル、すなわちLPS、フラジェリンやリポタンパク等の細菌の構成成分で、腸管上皮細胞を前刺激し、C. difficileフラジェリン刺激による腸管上皮細胞の活性化の程度の評価を行う予定である。またC. difficileフラジェリンは、主としてTLR5を介して認識されていると思われるが、NLRP4などのinflammasomeの関与についても合わせて検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は概ね予定通り消化しているが、平成24年度までに未使用の物品費は、平成25年度に繰り越して使用する。また平成23年度の未使用の旅費は、平成25年度に使用予定である。その他は当初の計画通り使用する予定である。
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