C. difficileは、病院内で発生する下痢症の中でもっとも頻度の高い起炎菌である。C. difficile感染(CDI)を防ぐためには、C. difficileが腸管へ定着するのを防ぎ、無症候性のキャリアを断つ必要があると考えられる。しかしながら、C. difficileが腸管へ定着する分子機序および腸管に定着し、免疫寛容(キャリア状態)を維持する分子機序については、ほとんど不明のままである。そこで平成25年度は、免疫寛容(キャリア状態)を維持する分子機序についての解析を中心に行った。 腸管内には大量のcommensal bacteria(共生細菌)が存在し、これらからの刺激により、免疫寛容が引き起こされている可能性が推測される。Muramyl dipeptide(MDP)は、Gram陽性とGram陰性の両方の細菌を構成するペプチドグリカンであり、核内受容体NOD2を介して細胞を活性化することが知られている。そこで、共生細菌からの刺激としてMDPに着目し、MDPにより腸管上皮細胞などの細胞を前刺激し、その後フラジェリンで刺激を行った場合、細胞の活性化がどのように制御されるかについて検証を行った。 フラジェリン(100ng/mL)をMDP(10μg/mL)と同時刺激しても、フラジェリン単独刺激と比較してIL-8の産生量は亢進しなかった。しかしながら、16時間前にMDPで前刺激した細胞にフラジェリン刺激を加えると、フラジェリン単独刺激と比較してIL-8の産生量は有意に低下した。従って、MDPの前刺激により、不応答の状況になっていると考えられた。またNF-kB活性とp38のリン酸化の抑性が認められたことから、IL-8の産生には主としてこの経路が関与していると推測された。siRNAでNOD2の発現を抑制すると、IL-8の産生量は元のレベルにまで回復したことから、このトレランスの発現にはNOD2が関与していると考えられた。
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