研究課題/領域番号 |
23591504
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中村 公俊 熊本大学, 医学部附属病院, 講師 (30336234)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メタボリックシンドローム / カルシウムシグナル / トランスジェニックマウス / 内胚葉系幹細胞 / 肝細胞 |
研究概要 |
メタボリックシンドロームは、肥満、高脂血症、高血圧や糖尿病などの合併によって起こる動脈硬化のハイリスク群である。calreticulinは肝細胞、膵臓β細胞、脂肪細胞などにおいて、糖、脂質代謝の調節に関与している。本研究では、時間、組織特異的calreticulinの過剰発現をtamoxifenにより誘導可能なトランスジェニックマウスを作成した。そして、マウス肝細胞、膵内分泌細胞へと分化する幹細胞の分離、分化誘導法を用いて、calreticulin欠損マウスと、時間、組織特異的calreticulinの過剰発現マウスから内胚葉系幹細胞を確立し、そのカルシウムシグナルにおける機能の解析を行った。そしてメタボリックシンドロームの発症のメカニズムを、遺伝子発現やタンパク質の機能の調節に重要なカルシウムシグナルの観点から解析した。そのために、calreticulin の発現レベルを肝細胞、膵臓β細胞、脂肪細胞のそれぞれにおいて調節できるトランスジェニックマウスを用いて、肝細胞特異的にcre recombinaseを発現するマウスと交配し、ウエスタンブロット法、RT-PCR法を用いることにより、肝細胞におけるcalreticulinの発現量を野生型と比較した。このトランスジェニックマウスにおいて、肝臓、膵β細胞、脂肪細胞における糖、脂質代謝について解析した。また、Calreticulin欠損マウスは、脂肪組織の発生が障害されるとともに、糖、脂質代謝異常をおこすことが示唆されている。そこで、calreticulin過剰発現マウスにおける糖の産生、貯蔵やインスリンの産生、分泌、脂質の肝臓への取り込みや分解、アディポサイトカインの産生などについて解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メタボリックシンドロームにおけるcalreticulinの役割について解析するために、時間、組織特異的calreticulinの過剰発現をtamoxifenにより誘導可能なトランスジェニックマウスを作成した。マウス肝細胞、膵内分泌細胞へと分化する幹細胞の分離、分化誘導法を用いて、幹細胞の分化誘導を行った。さらに、時間、組織特異的calreticulinの過剰発現マウスから内胚葉系幹細胞を確立した。そのカルシウムシグナルにおける機能の解析として、標的臓器である肝臓にcalreticulinが過剰発現していることを確認した。そしてcalreticulin の発現レベルを肝細胞、膵臓β細胞、脂肪細胞のそれぞれにおいて調節できるトランスジェニックマウスを用いて、肝細胞特異的にcre recombinaseを発現するマウスと交配した。このマウスにおいてウエスタンブロット法、RT-PCR法を用いることにより、肝細胞におけるcalreticulinの発現量を野生型と比較した。以上のように、本研究における今年度の目標は達成していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Calreticulin の発現レベルを肝細胞、膵臓β細胞、脂肪細胞のそれぞれにおいて調節できるトランスジェニックマウスを用いて、脂肪細胞特異的にcre recombinaseを発現するマウスと交配し、ウエスタンブロット法を用いることにより、脂肪細胞におけるcalreticulinの発現量を野生型と比較する。トランスジーン由来のcalreticulinの発現は、トランスジーンの3’端に存在する小胞体残留シグナルの5’側に挿入したhemagglutinin (HA)タグを、抗HA抗体を用いることにより検出する。このHAタグは、すでにcalreticulinによるカルシウムシグナル調節を障害しないことをin vitroにおいて確認している。このトランスジェニックマウスにおいて、肝臓、膵β細胞、脂肪細胞における糖、脂質代謝について解析する。一方でCalreticulin欠損マウスは、脂肪組織の発生が障害されるとともに、糖、脂質代謝異常をおこすことが示唆されている。それゆえ、過剰発現マウスにおいても糖の産生、貯蔵やインスリンの産生、分泌、脂質の肝臓への取り込みや分解、アディポサイトカインの産生などに異常をきたすことが予想される。
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次年度の研究費の使用計画 |
膵臓β細胞特異的にcre recombinaseを発現するマウスと交配して得られた、膵臓β細胞特異的なcalreticulin過剰発現マウスの解析を行う。また、脂肪細胞特異的プロモーターであるaP2プロモーターの制御下にcre recombinaseを発現するマウスとも交配を行い、脂肪細胞特異的なcalreticulin過剰発現マウスを作成する。これらのマウスにおいても表現型を解析する。心筋細胞特異的にcre recombinaseを発現するマウスと交配することにより、心臓特異的なcalreticulin過剰発現マウスを作成している。このマウスはcre-loxPシステムを利用することにより繁殖系としての維持が可能となり、解析に十分な個体数や心筋細胞を集めることが可能となる。この組織特異的calreticulin過剰発現トランスジェニックマウスの脂肪細胞、膵臓ラ氏島、血管内皮細胞、心筋細胞分離のために必要な培養装置、試薬を購入予定である。。脂肪細胞の分離にはコラゲナーゼ/KRBバッファーよる細胞分散を用いた初代培養法、ラ氏島の分離にはコラゲナーゼによるラ氏島回収法、血管内皮細胞の分離にはPSP培養法などを用いる。これらの過剰発現細胞では、カルシウムシグナルの異常による糖、脂質代謝異常、細胞膜レセプターやチャンネルの異常による代謝制御の異常などが出現することが考えられる。これらの異常を、アディポサイトカイン、血糖、血中インスリンや脂質の変化、細胞膜レセプターの発現量や糖鎖による修飾異常の有無、細胞内カルシウム濃度の変化などを解析するため、これらの試薬を購入予定である。
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