研究課題
ライソゾーム病は、ライソゾーム内酵素の欠損により細胞のライソゾームに基質となる物質が蓄積し、細胞死を来す。ライソゾーム病の神経障害のメカニズムとして、ライソゾーム内の基質蓄積が起点となりオートファジーが亢進することが重要とされている。ライソゾーム病の神経障害の機序を解明するため、ライソゾーム病のひとつであるムコ多糖症II型のモデルマウス(IDS遺伝子KOマウス)について、脳組織を形態学的に検討した。このマウスは、3~4か月齢で骨変形、肝腫大が明らかになり、神経症状も出てきて動きが拙劣となる。5か月齢のモデルマウスの脳組織を電子顕微鏡により形態学的に検討した。大小の空胞で細胞質が充満した細胞が脳組織全体に認められた。空胞化した細胞の数は、大脳と線条体にきわめて多く、海馬、小脳では比較的少なかった。空胞化した細胞は、ほとんどがミクログリアであったがアストロサイトも存在した。空胞の内容は、微細顆粒状~糸屑状のものがほとんどで、ムコ多糖が貪食されライソゾーム内に蓄積し膨化したものと推測された。層状の構造物の蓄積も散見され、ミトコンドリア等の細胞内小器官がオートファジーを受け、ライソゾーム内に貯留していると思われた。また、脂質(ガングリオシド)の蓄積を示唆する層状構造も一部に認められた。層状の蓄積物はアストロサイトに多くある傾向であった。他方、神経細胞、プルキンエ細胞、顆粒細胞には著変が認められなかった。さらに、空胞化したミクログリアが神経細胞に接着して存在する像が多数認められた。血管周囲にも同様のミクログリアが接着して存在し、内皮細胞には変化が認められなかった。また、血管周囲の血液脳関門を形成するアストロサイトのfoot processが腫大し、浮腫状を呈している像が多数認められた。これらの病変は、ムコ多糖症II型における神経変性のメカニズムを知るうえで重要な所見と考えられた。
3: やや遅れている
免疫組織染色の条件設定がうまくいかず、時間がかかってしまった。
病中期と推測されるムコ多糖症II型モデルマウス(5か月齢)の形態学的検索から、病像の中心が神経細胞でなくミクログリアであることが確認された。この結果を踏まえ、ムコ多糖症II型の神経病変は、病気の起点となるムコ多糖の蓄積、それを貪食するミクログリアの空胞化から、どのようなステップを経て神経症状を呈するようになるのかを病末期のマウス(10~12か月齢)を同様にして検索することにより検討する。また、オートファジーの亢進が神経変性にどの程度関与しているか、抗LC3抗体を用いた免疫電顕およびウェスタンブロット法により検討する。さらに、ガングリオシドはアポトーシスの誘導シグナルとなると言われていることから、ライソゾーム内に蓄積する層状構造物がガングリオシドであることを検証するため、抗ガングリオシド抗体による免疫染色も合わせて行う。現在、臨床現場で用いられている酵素製剤を静脈内投与あるいは脳室内投与し、形態学的にトルイジンブルーの染色性の低下や空胞細胞の減少などの有意な変化を認めるかどうかを検討する。さらに、オートファジーを阻害する薬剤(3-methyladenine、bafilomycin A1、chloroquine、clarithromycineなど)を経口投与して、酵素製剤単独よりも良好な効果が得られるかを検討する。
モデルマウスの飼育、維持のため、および抗体等の試薬の消耗品に8~9割の支出を予定。研究成果の発表のための学会出張を国内で1~2回を計画。
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日本マス・スクリーニング学会誌
巻: 21 ページ: 15-19
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小児科診療
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こどもケア
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