研究課題
ライソゾーム病は、ライソゾーム内の加水分解酵素の欠損により、多臓器の細胞のライソゾームに基質となる物質が蓄積し、細胞死を来す。ほとんどのライソゾーム病は神経障害を来し、神経障害のメカニズムとしてオートファジーの亢進が重要視されている。ライソゾーム病のひとつであるムコ多糖症II型のモデルマウス(IDS遺伝子KOマウス)を用いて神経障害のメカニズムを組織学的に検討することを目的として研究を始めた。前年度までの研究において、このマウスの20週齢の脳組織の電子顕微鏡所見で、大小の空胞で細胞質が充満した細胞が脳組織全体に認められ、これらの細胞はほとんどがミクログリアおよびアストロサイトであることが分かった。空胞の内容は、微細顆粒状~糸屑状のものがほとんどで、ムコ多糖が貪食されライソゾーム内に蓄積し、膨化したものと推測された。また、ミクログリアおよびアストロサイトの空胞内にはガングリオシドと思われる層状の構造物も存在した。さらに、空胞化したミクログリアが神経細胞に接着して存在する像が多数認められた。他方、神経細胞、プルキンエ細胞、顆粒細胞には著変が認められなかった。このことから、ムコ多糖症II型における神経障害は、ムコ多糖の蓄積による一次的障害ではなく、細胞ライソゾームにおけるオートファジー機能の破綻による二次的な障害ではないかと推測し、このマウスにオートファジー阻害物質あるいは誘導物質を投与してさらに検索を行った。オートファジー阻害物質のクロロキンを4週齢より経口投与し、20週齢時に脳組織を検索した。また、オートファジー誘導物質のラパマイシンを4週齢より腹腔内投与し、14週齢で脳組織を検索した。しかし、いずれの薬剤投与によっても、投与マウスは非投与マウスと比べて形態学的差異は認めなかった。
3: やや遅れている
クロロキンおよびラパマイシンの投与量の設定に時間がかかった。投与量の過剰により、マウスの多くが検索の前に死亡してしまった。
病中期と推測されるムコ多糖症II型モデルマウス(20週齢)の形態学的検索から、病像の中心が神経細胞でなくミクログリアであることが確認された。しかし、オートファジー阻害物質であるクロロキン、あるいはオートファジー誘導物質であるラパマイシンによっても、16週間の投与においては非投与マウスと比べて形態学的差異を認めることはできなかった。さらに、長期の実験計画による観察を行う予定である。ムコ多糖症II型の神経病変が、病気の起点となるムコ多糖の蓄積とそれを貪食するミクログリアの空胞化から、どのようなステップを経て神経症状を呈するようになるのかを物質面からアプローチするために、免疫染色等の手法を用いて検索する。オートファジーの亢進が神経変性にどの程度関与しているか、抗LC3抗体を用いた免疫電顕およびウェスタンブロット法により検討する。さらに、ガングリオシドはアポトーシスの誘導シグナルとなると言われていることから、ライソゾーム内の層状構造物がガングリオシドであることを検証するため、抗ガングリオシド抗体による免疫染色も合わせて行う。
該当なし。
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