研究概要 |
我々は脳内代謝物質の一つであるGABA(γ-aminobutyric acid)に着目し、7 Tesla超高解像度磁気共鳴分光法(7T MRS:magnetic resonance spectroscopy)による早産児の微細大脳皮質障害の無侵襲評価法の確立をめざし研究を開始した。しかし2011年3月に発生した東日本大震災の影響で、研究に大きな支障が生じた。そこで先行研究として1.5TマルチボクセルMRS法による早産・低出生体重児の脳内代謝物質を3か月ごとに評価し、発達予後と検討した。これまでにも早産児のMRSの報告はあるが、最も劇的な変化をきたす生後1歳までを詳細かつ経時的に計測したものはない。2011年5月から10月までに在胎34週未満かつ体重2,000g未満で出生し、当院新生児集中治療室に入院した症例は29人で、同意を得た21例(72%)を対象とした。4人は児の大奇形などで除外した。残る17例は、在胎29±2週、出生体重1,108±389gであった。受胎後週数39-46週、47-60週、61-74週、75-89週、90-104週に評価を行った。頭部画像に異常がなくかつ1歳までの発達指数(DQ)が常に70以上の症例13例をコントロール群とした。MRIに異常のある4例を比較対象群とし、1歳のDQが70未満の2例をA群、70以上の2例をB群とした。各群で周産期情報に有意差はなかった。神経細胞活動性マーカーのNAA(N-acetylaspartate)が、基底核で、A群は、受胎後週数61-74週以降、コントロール群より-2.0SD以下であったが、B群は基準値内で推移することが分かった。過去の報告では、予定日相当に行ったMRSはその後の発達予後を予測できず有用性は不明であった。今回我々の研究で、早産児のMRSは施行する月例が予後予測をするうえで重要な因子であるとこが判明した。
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