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2012 年度 実施状況報告書

感染・炎症による脳室周囲白質軟化症の病態と治療に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 23591515
研究機関杏林大学

研究代表者

岡 明  杏林大学, 医学部, 教授 (00251273)

研究分担者 伊藤 雅之  独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, その他部局等, その他 (50243407)
キーワード周産期脳障害 / 脳室周囲白質軟化症 / 脳性麻痺
研究概要

脳室周囲白質軟化症(PVL)は今日の脳性麻痺の最も重要な原因であるが、感染・炎症を含む複雑な病態であることが疫学的研究などで示されている。感染によるPVLの機序は明らかでなく、それに対する特異的な治療法もないため、病態の解明と治療法の開発の目的として、我々は感染機転による実験的なPVLモデルを作成した。大腸菌由来のリポ多糖を使用し、胎生期の羊膜腔内あるいは新生仔の腹腔内に注入することにより、胎児期子宮内感染あるいは新生児期敗血症の感染のラットモデルを作成した。こうしたラットの脳を組織学的に検討したところ、ヒトPVLと同様に、脳室周囲の大脳白質に限局したPVL様病変を作成することができた。ヒトで見られる軸索の凝固壊死像や嚢胞形成は認められなかったが、炎症性細胞であるミクログリア/マクロファージが側脳室周囲白質に限局して出現した。また、大脳白質では髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトが著明に減少しており、その結果として髄鞘化の障害が認められた。ヒトPVLにおいても、単に壊死による嚢胞形成だけでなく、むしろ幼弱脳における未分化なオリゴデンドロサイトの障害と結果として生じる髄鞘形成異常が病態の重要な側面であることが指摘されてきている。この感染モデルにおける大脳白質障害はこうしたヒトPVLの病態に合致するものと考えられる。
さらにグラム陽性球菌敗血症のモデルとして、黄色ブドウ球菌由来毒素についても同様の検討を行った。興味深いことに、大腸菌由来のリポ多糖と異なり大脳白質優位ではなく、むしろ深部灰白質の変化に顕著であった。このことは、感染の原因菌とその毒素等のメディエーターの種類によって、脳障害のパターンは変化することが明らかとなった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は、ヒト脳性麻痺の原因として重要なPVLの中でも感染機転に注目して、その病態の解明と治療法の開発を目的としている。我々のこれまでの検討では、まず、感染によって幼弱ラットでは大脳白質障害が選択的に生じており、これはPVLの病態に感染機転が原因となることを動物モデルでも示す所見であった。さらに、白質を構成する細胞であるオリゴデンドロサイトの著明な減少を認めた点でも、ヒトPVLで注目されている幼弱オリゴデンドロサイトの選択的な障害に合致する所見であり、ヒトPVLの病態を解析する上で非常に有用なモデルであることを明らかにすることができた。感染の起因菌の種類による違いを検討するために、ブドウ球菌由来毒素を使用したところ、白質ではなく深部灰白質に変化を認めた。これは炎症機転による周産期脳障害の多様性を示すもので、臨床的にも重要な所見と考えられた。

今後の研究の推進方策

グラム陽性球菌感染モデルとしてブドウ球菌由来毒素を用いて、脳障害の分布とその特徴をさらに明らかにする。そして、脳の未熟性とその障害分布の検討を行う。さらに、グラム陽性菌由来毒素の受容体であるToll-Like Receptor2(TLR2)を介した障害機序について阻害剤を用いて検討する。
また、昨年度までに検討した大腸菌感染モデルでのオリゴデンドロサイト細胞障害の機序として、大腸菌由来のリポ多糖の受容体であるToll-Like Receptor4(TLR4)を検討したところ脳室周囲白質に蛋白の発現を認められた。未熟な中枢神経系のTLRの発現と機能についてはこれまで明らかにされておらず、蛋白およびmRNAの発現および、シグナル伝達系の活性化の有無などについて検討する。その上で、オリゴデンドロサイトがTLR4を介して直接的な機序で障害されているかどうかを検討する。
脳虚血実験動物モデルでは、骨髄由来細胞投与にて病変の縮小が認められている。感染によるPVLモデルにおいても、骨髄由来細胞移植によって減少したオリゴデンドロサイトの代償と髄鞘化の改善が認められるかどうかを評価検討する。

次年度の研究費の使用計画

以下の動物実験を行い解析を進める。
①ラットでのグラム陽性球菌感染モデルの実験系を用いて、脳障害の機序を動物実験にて検討する。
②ラットでの大腸菌感染モデルについて、オリゴデンドロサイトの細胞障害の機序を解析するために、オリゴデンドロサイトの分化段階のマーカー(O4、O1等)を用いて、解析を行い、細胞の分化の感受性と障害の関連性を検討する。
③リポ多糖およびブドウ球菌由来毒素の受容体であるTLR2とTLR4について、未熟脳でのタンパクおよびmRNAの発現を解析し、病態との関連を検討する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2012

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Epidemiology of acute encephalopathy in Japan, with emphasis on the association of viruses and syndromes.2012

    • 著者名/発表者名
      Hoshino A, Saitoh M, Oka A, Okumura A, Kubota M, Saito Y, Takanashi JI, Hirose S, Yamagata T, Yamanouchi H, Mizuguchi M.
    • 雑誌名

      Brain Dev

      巻: 34 ページ: 337-343

    • DOI

      10.1016/j.braindev.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Progressive conduction defects and cardiac death in late infantile neuronal ceroid lipofuscinosis.2012

    • 著者名/発表者名
      Fukumura S, Saito Y, Saito T, Komaki H, Nakagawa E, Sugai K, Sasaki M, Oka A, Takamisawa I
    • 雑誌名

      Dev Med Child Neurol

      巻: 54 ページ: 663-666

    • DOI

      10.1111/j.1469-8749.2011.04170.x.

    • 査読あり
  • [学会発表] Cerebral white matter injury caused by lipopolysaccharides in immature rat brains. A model of periventricular leukomalacia by neonatal sepsis.2012

    • 著者名/発表者名
      Shimazaki M, Miyata Y, Oka A.
    • 学会等名
      12th International Child Neurology Congress
    • 発表場所
      Brisbane
    • 年月日
      20120527-20120601

URL: 

公開日: 2014-07-24  

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