研究課題/領域番号 |
23591520
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
山本 幸代 産業医科大学, 医学部, 講師 (20279334)
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研究分担者 |
荒木 俊介 産業医科大学, 大学病院, 助教 (20515481)
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キーワード | 摂食調節 / 脳・末梢連関 / 生後発達機構 |
研究概要 |
肥満小児における血中脳由来神経栄養因子(BDNF)レベルの検討 摂食調節において、脳と全身臓器との両方向性の機能連関は、脳・末梢連関と称され注目されている。脳由来神経栄養因子(BDNF)もその一つであり、神経細胞の生存や分化に関わる神経栄養因子の一つであるが、摂食抑制やエネルギー代謝亢進作用を有する。今回我々は出生体重やアディポサイトカインとの関連についても検討を加え、BDNFと小児肥満の発症、進展との関連性について、出生時の栄養状態との関連を明らかにすることを目的とした。【方法】肥満児および非肥満児(男児17名、女児15名)を対象とし、BDNFの小児肥満における変動及びアディポサイトカインとの関連性を検討した。【結果】血中BDNFレベルは、高度肥満児(5.07±0.33 ng/ml)で、非肥満(6.26±0.46 ng/ml)および軽中等度肥満(6.21±0.35ng/ml)より有意に低値であった。肥満小児のうちメタボリックシンドローム(MS)児は10名で、その血中BDNFレベルは4.76±0.8 ng/mlとさらに低値であった。さらに血中BDNFレベルは、肥満度および血中ビスファチンと有意な負相関、出生体重と有意な正相関があり、重回帰分析でも肥満度および出生体重との関連があった。【考察】高度肥満やMSを呈する小児の血中BDNFレベルは低値である結果から、BDNFの小児肥満の発症・進展における重要性が示唆された。出生体重が軽いほどBDNFレベルが低値となった結果が、低出生体重児が生活習慣病のリスクが高いとするDOHaD仮説を支持する結果となり得るかもしれない。今後は動物モデルを用いた検討により、出生前後の栄養状態の変動が、生後の体格の変化に伴う血中BDNFレベルの変化や脳内でのBDNFレベルの変動についても検討を加えることにより,新たな知見が得られると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の予定としては、母体の栄養状態を通して、子宮内の栄養・代謝・ホルモン状態の変動が脳・末梢連関を構成する因子の蛋白・遺伝子発現の生後発達の様式や血中レベルの生理的変動に及ぼす影響についての検討が課題である。肥満小児を用いた検討でBDNFが小児肥満の発症・進展においても重要な役割を演じている可能性が示唆された。また出生体重が軽いほどBDNFレベルが低値なった結果が、低出生体重児が生活習慣病のリスクが高いとするDOHaD仮説を支持する結果となり得るかもしれない。今後は脳内での遺伝子発現の検討により、脳・末梢連関の関与を検討する必要がある。母ラットに対する実験的処置により胎児が受けた変化が、(A)視床下部におけるペプチドやその受容体の蛋白・遺伝子発現、(B)末梢組織での発現動態、(C)血中レベル、(D)末梢および中枢投与を行った際の脳内での作用機構、の生後発達に及ぼす影響を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
脳・末梢連関を構成する因子の中でも、特にネスファチン-1とBDNFを中心に研究を推進する。視床下部および脂肪細胞に発現するネスファチン-1は末梢・中枢投与の両方で摂食抑制作用を有し、注目されている。また脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor :) BDNFは神経細胞の生存や分化に関わる神経栄養因子の一つで、脳内BDNFの摂食調節における重要性が示されている。また末梢組織での蛋白・遺伝子発現や血中レベルの生後発達に伴う生理的変動の検討のみでなく、動物モデルを用いて脳内での蛋白・遺伝子発現を検討することにより、脳・末梢連関の生後発達機構の解明を行う予定である。用いる動物モデルとしては、子宮内の栄養・代謝・ホルモン状態の変動が脳・末梢連関の生後発達機構に与える影響の解明としのため、子宮内環境悪化のモデルとしては、①母体低栄養モデル、②母体栄養素欠乏モデルを用いる。生後の栄養の違いが、子宮内環境悪化に起因する脳・末梢連関の生後発達に異常におよぼす影響の解明のため、①母乳制限や授乳仔の匹数制限による母乳過剰投与を用いる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
出生後の栄養の違いが、子宮内環境に起因する脳・末梢連関の出生後発達の異常に対する影響の検討 子宮内環境悪化に起因した脳・末梢連関の異常が、生後の栄養状態によってさらに悪化する可能性が考えられる。母乳栄養児は生活習慣病の発症が少ないことが示されており、生後の栄養によっては脳・末梢連関の発達異常が改善する可能性も示唆される。また子宮内環境の悪化のみでは、脳・末梢連関の生後発達の異常は出現しない可能性もある。その場合は出生後の栄養状態の変動がさらに負荷されることで異常が出現することも予測されるため、生後の栄養の更なる影響を検討することは重要な課題である。 方法としては、子宮内環境悪化のモデルと同様のモデルを使用する。出生した仔ラットに対する栄養介入の方法としては、①:母乳制限、②:授乳仔ラットの匹数制限による母乳過剰、を用いる予定である。
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