研究実績の概要 |
グリア伝達物質である細胞外のATPがミクログリアの遊走や突起の伸展を制御し,プリン受容体であるP2Y12, P2Y13受容体の発現がミクログリアで特異的に高いことが注目されている.しかしこれらの受容体がミクログリアの炎症とどのような関わりを持つかについては知られていない. 不死化ミクログリア細胞株であるMG6細胞(独立行政法人農業生物資源研究所遺伝子組換え家畜研究センター 木谷 裕 先生より,理研バイオリソースセンターを介して供与)ならびにマウス一次混合グリア培養より単離したミクログリアを用いた.これらの細胞をLPSおよびATPで刺激し,IL-1βの産生を解析した.またミクログリアにおけるプリン受容体,CD39, CD73の発現を解析した. ミクログリアをLPSとATPで刺激すると上清中へのIL-1β分泌が認められた.ATPと共にアデノシンA1, A2A受容体の阻害薬であるDPCPX, SCH-58261を投与すると,IL-1β mRNAの発現に変化は見られなかったが,上清中へのIL-1βの分泌は増加した.アデノシンA1, A2A受容体の刺激薬はIL-1β の産生に影響しなかった.従ってミクログリアにおいてアデノシンA1, A2A受容体を介するシグナルはインフラマソームの活性化を負に制御することによりIL-1βの分泌を調整していると考えられた.またLPS刺激はミクログリアにおけるアデノシンA2A受容体の発現を上昇させたが,A1受容体の発現に変化は見られなかった.さらにミクログリアはATPをADPに変換するCD39を発現していた.以上よりアデノシンA2A受容体は炎症の存在化で発現が上昇して,ATPの分解により生じたアデノシンの刺激により炎症を抑制する方向に働き,炎症の負のフィードバック機構として作用すると推定された. このようにミクログリアのプリン受容体は突起の伸展のみならず炎症の制御にも寄与しており,これらの機能を調整することは炎症性神経疾患や神経変性疾患の病態を考える上で重要である.
|