研究課題/領域番号 |
23591524
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研究機関 | 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 |
研究代表者 |
時田 義人 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 周生期学部, 主任研究員 (50291175)
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キーワード | コンドロイチン硫酸 / プロテオグリカン |
研究概要 |
ニューログリカンCは、申請者の研究グループにより見出された神経細胞に発現する膜貫通型コンドロイチン硫酸プロテオグリカンである。これまでの研究から、ニューログリカンCはカテコールアミンの神経作用に関与している可能性が示され、統合失調症や薬物依存との関連が注目されている。これまでに我々はニューログリカンCの機能を明らかにするためNGCの結合分子を探索し、幾つかの候補分子を単離した。 本年度は、昨年度の研究結果を踏まえ、ニューログリカンCと結合する細胞増殖因子の一つである繊維芽細胞増殖因子との結合を生化学的に確認した。 繊維芽細胞増殖因子は複数の相同性の高い複数の分子により構成される増殖因子ファミリーである。そこで幾つかの繊維芽細胞増殖因子のファミリーメンバーを解析し、ニューログリカンCと結合する分子と結合しない分子が存在することを明らかにした。さらに、ラットに向精神薬を投与しニューログリカンCや繊維芽細胞増殖因子のmRNAの変動を解析し、これらの分子が薬物によって脳内での発現量が変動することをみいだした。この結果は、特定の神経核において向精神薬の作用により発現量が増加した繊維芽細胞増殖因子が、細胞膜表面に発現した膜貫通型プロテオグリカンであるニューログリカンCと結合することによって、組織内への拡散が制限されることを示す。 そこで、初代培養神経細胞を用いて繊維芽細胞増殖因子のドーパミン神経細胞への効果を検討し、繊維芽細胞増殖因子が神経細胞の機能を調節している可能性をみいだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの二年間で、ニューログリカンCと結合する生理活性分子として、複数の繊維芽細胞増殖因子を同定し、その確認を生化学的、細胞生物学的手法により行った。その解析結果に加え、同定した繊維芽細胞増殖因子とよく似た構造をもつ別の繊維芽細胞増殖因子分子とニューログリカンCは結合しないことも明らかにした。この結果は、両者の結合は特異性が高く、ニューログリカンCにより特定の繊維芽細胞増殖因子が細胞表面に集積する分子機構が働いている可能性を示している。 また、向精神薬によりニューログリカンCと繊維芽細胞増殖因子が、特定の神経核で発現量が変化していることを見つけた。特に薬物中毒と関連のある側坐核で両分子の発現量が増加することから、両者の特異的結合が薬物反応に関与している可能性があると考えられる。 そこで、その結合の生理的な意義を明らかにするために、ドーパミン神経細胞への繊維芽細胞増殖因子の作用を細胞生物学的に検討し、ニューログリカンCと結合する繊維芽細胞増殖因が神経細胞の機能に影響を与える可能性を示唆する結果を得ている。 これらの結果は、ニューログリカンCが薬物中毒の成立に関与する神経作用の一部に関係している可能性を示すと共に、統合失調症などの神経疾患の発症への関与を示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果から、ニューログリカンCと繊維芽細胞増殖因の結合が、何らかの形で神経細胞の機能に影響を与える可能性が示唆される。そこで、今後はその結果の再現性をより詳細な実験によって確認し、生理的な異議を明らかにすることをめざす。そのために、新たにニューログリカンC遺伝子改変マウスなどモデル動物を作製し、生化学的、細胞生物学的、また行動学的な解析を行い、ニューログリカンCや繊維芽細胞増殖因が精神疾患に関与する可能性をより詳細に解明する。特に、薬物を遺伝子改変マウスに投与し、その結果生じる行動変化や遺伝子の発現量の変動を解析することで、薬物中毒や精神疾患の発症機構を明らかにする手がかりを得たい。
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次年度の研究費の使用計画 |
細胞培養用試薬、分子生物学用試薬、免疫染色用試薬など 学会発表のための参加費、旅費、宿泊費 実験補助員のアルバイト代 論文投稿費、英文校正費用など
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