研究課題
ダウン症候群 (DS) は健常人の約10-20倍の頻度で急性リンパ性白血病(ALL)を発症し、DS関連ALL(DS-ALL)では、高2倍体やt(12;21)などの小児ALLにおいて代表的な染色体異常の頻度が低いことが知られている。最近欧米のグループからDS-ALLの約20%でJAK2遺伝子の活性化変異がみられること、約60%でサイトカインレセプターの1つであるCRLF2の遺伝子発現が亢進していることが報告された。さらに、CRLF2遺伝子の高発現がみられる症例のほとんど(DS-ALLの約半数)でP2RY8-CRLF2融合遺伝子が形成されていることが明らかとなった。また、CRLF2高発現例の一部においてCRLF2遺伝子変異(F232C)がみられるという報告もある。しかし、本邦のDS-ALL症例におけるこれらの遺伝子異常の頻度は不明である。そこで、本邦のDS-ALL 23例の診断時骨髄細胞から抽出したゲノムDNAまたはcDNAを用いて、PCRとダイレクトシークエンスにてJAK2およびCRLF2遺伝子変異、PCRにてP2RY8-CRLF2遺伝子再構成の解析を行った。また、cDNAの得られたDS-ALLの14例および非ダウンALLの25例について、リアルタイム定量RT-PCRにてCRLF2の発現量の解析を行った。その結果、DS-ALLの23例中2例(9%)でJAK2遺伝子変異(R683G)が認められ、CRLF2遺伝子変異は1例も認められなかった。P2RY8-CRLF2遺伝子再構成が認められたのは23例中4例(17%)のみであった。また、DS-ALLにおけるCRLF2の発現量は、非ダウンALLと比べて有意に高いという結果は得られなかった。本邦のDS-ALLでは、欧米と比べてJAK2およびCRLF2遺伝子異常の頻度が低いことが明らかとなり、発症メカニズムが異なる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、本邦のDS-ALL患者の検体を用いて、JAK2遺伝子変異、CRLF2遺伝子変異、P2RY8-CRLF2遺伝子再構成、CRLF2の発現レベルの4項目について解析を行うことができた。23例という症例数も、本邦におけるDS-ALLの発症率を考慮すると、おおむね順調に集積することができたといえる。しかし、論文として成果を発表するためには症例数はまだ十分ではなく、30例以上を目標にさらに症例を増やす必要があると考えられる。
これまでの解析から得られた、本邦のDS-ALLでは欧米と比べてJAK2およびCRLF2遺伝子異常の頻度が低いという結果を、さらに症例を増やして確認する。また、P2RY8-CRLF2遺伝子再構成やF232C変異以外のCRLF2遺伝子異常や、JAK2以外のJAKファミリーの遺伝子変異が生じている可能性も考えられるため、これらについても解析を行う予定である。さらに、JAK2およびCRLF2遺伝子異常と、予後を含めた臨床像との関連については、欧米においても十分に解明されていないため、この点についても調査を行いたい。
次年度の研究費の大部分を、遺伝子解析に必要な試薬などの物品費として使用する。研究費の一部を、学会で研究成果を発表する際の旅費として使用する予定である。
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