ダウン症候群(DS)は健常人の約10-20倍の頻度で急性リンパ性白血病(ALL)を発症し、DS関連ALL(DS-ALL)では、高2倍体やt(12;21)などの小児ALLにおいて代表的な染色体異常の頻度が低いことが知られている。最近欧米のグループからDS-ALLの約20%でJAK2遺伝子の活性化変異がみられること、約60%でサイトカインレセプターの1つであるCRLF2の遺伝子発現が亢進していることが報告された。さらに、CRLF2遺伝子の高発現がみられる症例のほとんど(DS-ALLの約半数)でP2RY8-CRLF2融合遺伝子が形成されていることが明らかとなった。また、CRLF2高発現例の一部においてCRLF2遺伝子変異(F232C)がみられるという報告もある。しかし、本邦のDS-ALL症例におけるこれらの遺伝子異常の頻度は不明である。そこで、本邦のDS-ALL症例の診断時骨髄細胞を用いて、これらの遺伝子異常について解析した。 本年度は新たに6例の解析を行い、解析症例は合計38例となった。DS-ALLの38例中6例(16%)でJAK2遺伝子変異(R683G)が認められ、CRLF2遺伝子変異は1例も認められなかった。P2RY8-CRLF2遺伝子再構成が認められたのは38例中11例(29%)であった。また、cDNAの得られたDS-ALLの27例(P2RY8-CRLF2陽性7例、P2RY8-CRLF2陰性20例)と非ダウンALLの25例についてCRLF2の発現量の解析を行った。非ダウンALL群のCRLF2発現量の中央値の10倍以上を高発現と定義した場合、DS-ALLの27例中9例(33%)(P2RY8-CRLF2陽性例7例中6例、P2RY8-CRLF2陰性例20例中3例)で高発現が認められた。 本邦のDS-ALLでは、欧米と比べてJAK2およびCRLF2遺伝子異常の頻度がやや低いことが明らかとなり、発症メカニズムが異なる可能性が示唆された。
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