研究概要 |
われわれは世界で初めて「ヒトHO-1欠損」症例 を発見した。(Yachie A, et al., J Clin Invest 103:129,1999)それによりHO-1酵素が生命の発生、生体の発育、恒常性維持に極めて重要な物質であることが知れた。しかし、1例のみの臨床病態からはHO-1欠損症の本質はつかみがたい状態が続いていた。 しかるに、われわれの第1例発見から十年余を経てようやく第2例目がインドで発見報告された。(Radhakrishnan N, et al., J Pediatr Hematol Oncol 33:74,2011) この症例は無脾症であることなど第1例目と臨床症状に類似性が高い。第2例目ではわれわれも遺伝子解析で協力し、エクソン2(R44X)のミスセンス変異がホモでみられストップコドンとなっていることが明らかとなった。この例は軽症で15歳を超えて比較的元気で生存おり、これは遺伝子変異箇所の違いによるのかもしれない。HO-1欠損症の報告が2例となったことで、本症の臨床病態像がより詳細に認識できるようになったのみならず、HO-1の機能的本質の解明にさらに一歩近づいた。私信では、同じインドでさらに複数例が存在するらしく、臨床病理と遺伝子学的検索が進められている。 その他、若年性関節リウマチの病態重症度のバイオマーカーとしてHO-1が有用であることを実証した。また、腎生検によらずに、尿沈査におけるHO-1発現を見ることで、腎疾患の重症度が推定できることがわかった。また、造血細胞移植後のサイトカインやHO-1蛋白発現プロファイルの解析が移植後回復経過観察に有用であることが知れた。動物実験では移植後GVHD軽減に培養キラー細胞が有効かもしれないことが知れた。さらに、神経系腫瘍培養細胞を用いた研究では、発癌遺伝子発現に関する情報伝達系の解析が進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
待望のヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)欠損症の第2例目がインドで発見され、報告された。Radhakrishnan N, et al., J Pediatr Hematol Oncol 33:74,2011)この症例は報告前にわれわれに連絡があり、共同で遺伝子検索を実施した。われわれの第1例目とは遺伝子の異常個所が異なり、それが症状の違いに表現されている可能性が高いと思われる。さらに複数例が解析されつつあり、それによってHO-1欠損症の臨床像や病態がより詳しく知れるようになり、HO-1の機能的本質に一歩近づいた。全身性炎症疾患や腎障害、血管炎などにおけるHO-1の関与に関する研究も進んだ。
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