研究課題/領域番号 |
23591548
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
久米 晃啓 自治医科大学, 医学部, 准教授 (10264293)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 癌 / ゲノム |
研究概要 |
癌遺伝子EVI1の強発現によるエピジェネティクスな影響、なかでもヒストンメチル化に与える影響について検討した。入手したヒトEVI1 cDNAの塩基配列を確認し、サイトメガロウイルスプロモータ(CMV)の支配下にブラスチシジンS耐性遺伝子(Bsr)とEVI1を共発現するベクターを構築した。このベクターを用いて、野生株ではEVI1を殆ど発現していないHEK293細胞に遺伝子導入し、Bl-Sで選択してEVI1の強発現株を得た(発現はイムノブロットと免疫蛍光染色で確認)。 EVI1発現株について、H3ヒストンLys9(H3K9)のジメチル化(H3K9me2)とトリメチル化(H3K9me3)の程度と、H3K9メチル化酵素であるG9aとSUV39H1の発現を解析した。イムノブロットでは、EVI1発現株においてH3K9me2に明らかな変化はなかったが、H3K9me3の相対的減少が観察された。これに対応するように、H3K9のモノメチル化・ジメチル化を触媒するG9aの発現量に明らかな差は認められず、H3K9トリメチル化を触媒するSUV39H1の相対的減少が観察された。一方、免疫蛍光抗体法による観察では、EVI1発現細胞にてH3K9me2・H3K9me3・SUV39H1のシグナル強度が増大しており(G9aシグナルは不変)、イムノブロット解析の結果と矛盾していた。そこで、再びHEK293細胞にEVI1遺伝子をトランスフェクションし、イムノブロットでH3ヒストンの総量とH3K9me3の比を検討したが、抗体の特異性の問題もあり、EVI1発現細胞における明らかな差は検出できなかった。現在、アッセイの感度と特異性を改善するため、コアヒストンの抽出系や、より定量的なメチル化ヒストンの測定系であるELISA法について検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東日本大震災とその後の電力事情により、上半期の実験が大幅に制限された。 入手可能な抗H3K9me2抗体・抗H3K9me3抗体を多種試用したが、いずれも特異性や信頼性に問題があり、細胞からのサンプル調製やイムノブロットの条件検討・評価に多くの時間と労力を費やさざるを得なかった。 以上の理由により、当初予定していたEVI1強制発現がヘテロクロマチン形成に与える影響と、EVI1タンパク精製については十分な検討ができなかった。一方、種々の条件検討の積み重ねによって、イムノブロット等におけるメチル化ヒストンの検出感度が研究開始当初に比べて大幅に向上したため、次年度以降における研究の基礎が整った。
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今後の研究の推進方策 |
最近利用可能になった修飾ヒストンペプチドアレイを用いてシステマティックに抗体の検証を行い、抗H3K9me2抗体・抗H3K9me3抗体はじめ修飾ヒストン検出抗体として最適なものを選定する。その上で、改めてEVI1発現HEK293細胞株におけるヒストンの修飾状態を解析する。 上記のペプチドアレイは、サンプルのヒストン修飾活性を測定するための基質としても使用できるので、ヒストン修飾酵素にEVI1発現HEK293細胞またはHEK293野生株(対照)の核抽出物を添加して修飾活性を比較する。 免疫蛍光抗体法にて多重染色により個々のEVI1強制発現細胞を識別しつつヒストン修飾の状況やヒストン修飾酵素発現を観察するため、FLAGエピトープ等のタグを付加したEVI1発現ベクターを構築する。同時に、このタグを用いてEVI1タンパクを精製し、ヒストン修飾酵素の活性に与える影響を検討する。 これらの基礎検討と並行し、当初の予定通り、EVI1発現レトロウイルスベクターの構築とマウス骨髄細胞への遺伝子導入、細胞寿命の検討などを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する予定の研究費は修飾ヒストンペプチドアレイと新たな抗修飾ヒストン抗体の購入に充当する。次年度の予算は、ほぼ予定通り、当初予定されていた実験に用いる消耗品の購入等にあてる。
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