研究課題/領域番号 |
23591552
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
宮内 潤 東京歯科大学, 歯学部, 教授 (20146707)
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研究分担者 |
川口 裕之 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, その他部局等, 准教授 (00313130)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 一過性白血病 / ダウン症候群 / 造血微小環境 |
研究概要 |
ダウン症児における一過性骨髄増殖症(TMD)は、胎児肝で発生し新生児期に自然治癒する特殊な腫瘍である。TMDが自然治癒する機序として、生後に造血臓器が肝臓から骨髄に移行することに起因する可能性を検証する目的として、胎児の肝および骨髄に由来する間質細胞がTMD芽球の増殖に与える影響について解析を行った。TMDの芽球が胎児肝の間質細胞に増殖を依存していることを過去の研究にて証明したが、今年度はこれをさらに継続し、以下の結果を得た。(1) 胎児の肝臓に由来する間質細胞の培養上清中の造血因子を解析し、GM-CSF, G-CSF, SCF, IGF2(insulin-like growth factor 2)が産生されることを証明した。IL-3とTPOは検出されなかった。この結果から、TMD芽球は胎児肝においてGM-CSF, SCF, IGF2のいずれかによって増殖が維持される可能性が考えられた(G-CSFはTMD芽球の増殖刺激作用を示さない)。(2) IGF2は胎児肝にて産生される造血因子であり、TMDの増殖維持にもっとも関与が示唆されることから、IGF2の作用をin vitroの培養にて検討したが、IGF2単独ではTMD芽球の増殖刺激作用は微弱であった。この結果はさらに詳細な検討を要する。(3) 対照として成人の急性骨髄性白血病(AML)の芽球を用いて胎児肝由来間質細胞との共培養実験を行った結果、胎児肝由来間質細胞はTMDのみならずAMLの芽球に対しても芽球の増殖支持作用を示した。胎児肝由来間質細胞の造血支持作用はTMDに特異的なものではないが、胎児肝がTMD発症に重要な臓器であるという仮説には矛盾しない結果と考えられた。(4)胎児の肝および骨髄から得られた間質細胞の性格づけを免疫染色にて行ない、間質由来の細胞であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は平成23年度の研究計画の4)および平成24年度以降の研究計画の3)に記載した研究を行った。TMDの発症と自然治癒に胎児の肝臓という特殊な造血微小環境がどのような役割を果たすかについて、主として造血因子の産生という面から解析を継続し、胎児の肝および骨髄の間質細胞から産生される造血因子を同定し、肝臓と骨髄の機能的な違いを認識できた。今回得られた結果は、TMDが胎児期の肝臓で発生する際に関与する造血因子を具体的に特定するもので、このような結果は今まで世界的にも報告がなく、それなりの成果が得られたと考える。しかし、間質細胞から産生される造血因子の中でどれがもっとも重要な因子で、どのような機序でTMD発症に関わるかは今後の検討課題であり、次年度もこの点に関して研究を継続する。平成23年度の研究計画の1)と3) に記載した、TMDにおいてGATA1遺伝子変異にもとづき高発現されるGATA1s蛋白の発現を遺伝子操作にてノックダウンし、一方抑制された全長型GATA1蛋白の発現を復活させることにより、これらの蛋白の疾患発症における役割を解析する実験は、本年度は施行できなかったため、次年度に開始する。平成23年度の研究計画の2)に記載した、21番染色体上に存在する遺伝子(ERGおよびRUNX1)が21トリソミー(ダウン症候群)にてTMD発症に果たす役割の解析に関しても、同様に次年度より開始する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者の川口裕之が2011年10月に防衛医科大学校に勤務施設異動となり、異動前施設である東邦大学では研究費振り込み期日が異動日に近いために研究費の執行を控え、さらに異動後の防衛医大では小児科研究費の予算執行期限が近いもの優先したために、本研究費の全額使用には至らなかった。このため、川口が一部担当する下記の2)と3)の研究は次年度から開始することとした。1) 胎児期の造血微小環境は、TMDの発症のみならず自然治癒にも関与する可能性が考えられる重要な要素であるため、今後も胎児肝の間質細胞の機能解析を本研究の重要な一つの柱として位置づけて継続する。造血因子に対する中和抗体で処理した間質細胞の培養上清中でTMD芽球を培養し、抗体の増殖抑制効果から胎児肝間質細胞が産生する造血因子の中でどれが最もTMD芽球の増殖に深く関わるかを明らかにする。またIGF2は胎児期に特異的に産生される造血因子であり、TMDの発症に関与が考えられるため、単独ではIGF2の増殖刺激作用は微弱であるが、他の造血因子との組みあわせ等でどのような効果を発揮するかをin vitroの培養実験にて検討する。これらの結果を総合し、論文にて発表する予定である。2) TMD発症に関与が示唆されている21番染色体上に存在する候補遺伝子としてERGと RUNX1遺伝子があり、最近DYRK1aという遺伝子もダウン症患者の急性巨核芽球性白血病(AMKL)発症に関与することを示す論文が発表されたため、これを加えた遺伝子を標的としてshRNAを作製し、ダウン症候群由来AMKL細胞株に対する遺伝子発現抑制効果をもとに、TMDおよびAMKLの発症に関わる21トリソミーの役割を解明する。3) TMD芽球にて高発現されているGATA1s蛋白の機能を上記と同様の手法を用いて解析する。正常な全長型GATA1を発現するベクターも作製する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1) 胎児期の造血微小環境の影響を調べる研究では、遺伝子組み換えヒト造血因子(IGF2, GM-CSF, SCF, G-CSFなど)とこれに対する中和抗体が必要である。造血因子の遺伝子発現を解析するためのPCR用のプライマーをはじめとする遺伝子解析のための試薬を購入する。造血因子の産生量を測定するELISAキットも必要となる。TMD芽球と間質細胞の共培養実験に必要な各種培養器具と試薬およびその結果の解析に必要な器具と試薬を購入する。2) 遺伝子ノックダウンによるAMKL細胞株の増殖・分化への影響の解析のため、標的遺伝子に対するshRNAの作製と、細胞に導入するための試薬を購入する。遺伝子導入効率を測定するためのウェスタンブロット解析に必要な試薬等も必要となる。3) 遺伝子発現ベクター作製のための試薬およびその効果解析のための試薬を購入する。4) 論文作成のためのパソコンソフト、英文校正費用、発表論文の出版費等にも使用する。
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