研究課題
小児の代表的な腹部固形腫瘍である神経芽腫には、自然退縮を起こす予後良好タイプがある一方で、1歳以降に生じ、非常に予後不良な難治例も存在する。近年のがん治療法の進展により、小児癌の治癒率は目覚ましく向上したが、進行神経芽腫については5年生存率は約30%と依然として予後不良である。本研究ではこのように多様な臨床像を示す各サブセットの神経芽腫について最適な治療戦略をたてることを目的に、ゲノム異常と遺伝子発現の観点から悪性化腫瘍に強く関連する分子的特徴を明らかにする。これまでに蓄積してきた神経芽腫組織バンクを解析対象とした網羅的ゲノムコピー数異常解析および遺伝子発現解析の結果を、エピゲノム解析とマイクロRNA発現解析を組み合わせることによりさらに発展させ、新規治療標的遺伝子の同定とその解析を目的とする。平成23年度は以下を実施した。1. 予後関連マイクロRNAの抽出約700種類のマイクロRNAを搭載したmiRNAチップを用いて40症例(予後良好群20症例、予後不良群20例)の発現プロファイルを行い、同症例のゲノム異常パターンとの相関を解析した。予後不良な神経芽腫の高頻度欠失領域に存在し発現が低下しているがん抑制遺伝子様マイクロRNA、または、高頻度増加領域に存在し発現が高いがん遺伝子様マイクロRNAの候補を合計80種類抽出した。相関があるマイクロRNAの予想標的遺伝子の情報をTargetScanデータベースで検索し、遺伝子発現データと比較した。2. 予後関連エピゲノム変化の抽出神経芽腫細胞株12種類を脱メチル化剤存在下で培養してDNAの脱メチル化を行い、RNAを調製した。未処理細胞のRNAとともにDNAチップを用いた遺伝子発現解析を行い、各遺伝子の発現レベルを比較した。メチル化による発現抑制が進行例に特異的に起こっているものを絞り込むため、メチル化特異的PCR法のパネルを作製した。
2: おおむね順調に進展している
1. 予後関連マイクロRNAの抽出計画通り40例のマイクロRNA網羅的発現解析を行い、統計解析により予後に強く相関するマイクロRNAの候補を80種類抽出した。これらのマイクロRNAのゲノム情報と予想標的遺伝子のデータベースからの取得に時間を要したが、ほぼ予定通り遺伝子発現データとの比較も開始できた。2. 予後関連エピゲノム変化の抽出計画通り神経芽腫細胞株の脱メチル化剤存在下での培養、脱メチル化DNAとRNAの抽出を行った。DNAチップを用いた遺伝子発現解析を行い、各遺伝子の発現データを取得した。メチル化による発現抑制の検証を行うため、細胞株のBisulfate法-メチル化特異的PCR法のパネルも作製したので、抽出した遺伝子について今後順次検証を行うことが可能である。
1. 予後関連マイクロRNAの抽出引き続き、予後との相関の強さにより絞り込んだマイクロRNA発現レベルについて100例の独立症例を追加した定量PCRを行い、候補を絞り込む。再現性が確認された数種類のマイクロRNAに関しては神経芽腫細胞株に候補マイクロRNAおよびコントロールを導入し、細胞増殖やコロニー形成能に対する影響を検討する。上記と並行して、最も予後不良な症例群であるMYCN増幅群30例(長期生存例20、死亡例10)についてアレイCGH解析と網羅的遺伝子発現解析を開始する。2群間で有意に差のある領域ならびに遺伝子発現データを検討するとともに、100例以上の症例を用いた定量RT-PCRを行い、神経芽腫進行例の治療感受性に相関する候補遺伝子を絞り込む。2. 予後関連エピゲノム変化の抽出引き続きBisulfate処理した細胞株を用いたメチル化特異的PCR法およびBisulfite sequence法を行い、遺伝子を絞り込んだ後、プライマリー腫瘍100例についてメチル化特異的PCRにより結果の検証を行う。また、メチル化と予後との相関を検討し、予後因子となるメチル化遺伝子を絞り込む。取得されたデータをもとに、メチル化シトシン抗体を用いたクロマチン免疫沈降法(ChIP-chip解析)ならびに回収したDNA断片のシーケンシング(ChIP-seq)を開始する。
上記実施計画のため、H24年度直接経費は以下の内訳となる予定である。消耗品(約160万):実験計画実施のための核酸調製用試薬、マイクロアレイ反応試薬、定量PCR用試薬、細胞培養用試薬ならびにチューブ類などの一般消耗品旅費(約30万):情報収集ならびに成果の発信を目的とした国内学会参加のための旅費2回分と神経芽腫の国際学会参加のための旅費を計上謝金(約30万):細胞培養ならびに定量PCR解析の研究補助者への謝金その他(約10万):振込手数料、論文の英語校正、学会参加費等
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