研究課題
小児の代表的な腹部固形腫瘍である神経芽腫は、自然退縮する予後良好タイプから予後不良な難治性タイプまで、臨床経過が異なるサブセットが存在する。進行神経芽腫については5年生存率は約30%と依然として予後不良である。本研究ではこのように多様な臨床像を示す各サブセットの神経芽腫について最適な治療戦略をたてることを目的に、ゲノム異常と遺伝子発現の観点から悪性化腫瘍に強く関連する分子的特徴を明らかにする。これまでに行ってきた網羅的ゲノムコピー数異常解析および遺伝子発現解析の結果に対して、エピゲノム解析とマイクロRNA発現解析を組み合わせることによりさらに発展させ、新規治療標的遺伝子の同定とその解析を目的とする。平成24年度は以下を実施した。1. MYCN増幅群の高密度ゲノムおよび発現アレイ解析:典型的難治性タイプのMYCN増幅群30例(長期生存例20、死亡例10)について、解像度244KのアレイCGHと13000遺伝子の小児癌由来DNAチップを用いた網羅的遺伝子発現解析を行った。2群間で有意に差のある複数箇所のゲノム領域と遺伝子発現データを抽出し共通性を検討したところ、両者に強い相関は見られなかったものの、特定のゲノムパターンに関しては本症例群において有意に予後に相関していることが示された。2. 予後関連エピゲノム変化の検索:昨年度に引き続きBisulfate処理細胞株を用いたメチル化特異的PCRとBisulfite sequenceを行い、予後に相関するエピゲノム変化の絞り込みを進めた。プライマリー腫瘍50例を用いたパイロシーケンサーによる定量Bisulfite-PCRの系を立ち上げ、検証を開始した。3. 予後関連マイクロRNAの抽出と絞り込み:昨年度絞り込んだ予後に相関する80種類のマイクロRNAのうち上位4種類について定量PCRを行い、独立症例における再現性を確認した。
2: おおむね順調に進展している
1. MYCN増幅群の高密度ゲノムおよび発現アレイ解析典型的な難治性タイプのMYCN増幅群30例について、計画通り網羅的ゲノム解析を行った。独立症例を用いた検証は引き続き必要であるが、ゲノムコピー数の特定のパターンの予後への強い相関が見いだされ、今後の腫瘍リスク分類への適用の可能性が期待される。2. 予後関連エピゲノム変化の検索計画通り予後に相関するエピゲノム変化の絞り込みが進んでいると言える。パイロシーケンサーによる定量Bisulfite-PCRの導入により、プライマリー腫瘍を用いての検証がスムーズに行える環境が整った。3. 予後関連マイクロRNAの抽出と絞り込み候補となるマイクロRNAがターゲットする遺伝子の候補はデータベース検索から多数挙がっており、標的遺伝子の絞り込みは容易ではないが、今後神経芽腫細胞株を用いた導入実験を行い、遺伝子発現解析を組み合わせることで効率よく候補の絞り込みを計画している。
1. MYCN増幅群の高密度ゲノムおよび発現アレイ解析MYCN増幅群については、今回抽出された予後に相関するゲノムコピー数異常の特定のパターンについて神経芽腫組織バンクに保有の独立症例を用いた検証を進める。また、典型的な予後中間群である1p欠失、11q欠失タイプの腫瘍群に関しても、同様の解析を行い、それぞれに標的となっているゲノム異常パターンを抽出する。2. 予後関連エピゲノム変化の検索候補遺伝子領域について、パイロシーケンサーを用いた定量Bisulfite-PCRの検証を進め、新たな予後マーカーを提示する。新たな試みとして、目立ったゲノムコピー数異常のない症例群について重点的に特定の癌関連遺伝子変異候補パネルによる次世代型シーケンシングの系を導入するとともに、エピゲノム異常解析を進める。3. 予後関連マイクロRNAの抽出と絞り込み神経芽腫細胞株を用いた候補マイクロRNA導入実験を行い、細胞増殖、細胞死の形質が得られたものに関して網羅的遺伝子発現解析を組み合わせ、標的遺伝子候補の絞り込みを行う。
上記実施計画のため、H25年度直接経費は以下の内訳となる予定である。消耗品(約150万):実験計画実施のための核酸調製用試薬、マイクロアレイ反応試薬、定量PCR用試薬、細胞培養用試薬ならびにチューブ類などの一般消耗品旅費(約30万):情報収集ならびに成果の発信を目的とした国内学会参加のための旅費2回分と神経芽腫の国際学会参加のための旅費を計上その他(約10万):振込手数料、論文の英語校正、学会参加費等
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