研究概要 |
免疫組織染色を施した腎生検切片を低真空走査型電子顕微鏡(低真空SEM)で観察評価した。その結果は、抗体陽性部位のコントラストが弱く詳細な観察は困難であった。それを克服するために四塩化オスミウム処理を免疫組織染色の過程で行った。それにより切片全体のコントラストが強くなり抗体陽性部位が特に明るく明瞭に示され抗体沈着細胞などの形態変化が低真空SEMで観察可能となった。一方で足突起などの微細形態の保存性が悪かった。免疫組織染色検体の低真空SEM観察の方法については今後の検討が必要と考えた。 次にこれまで行ってきたネフローゼ症候群腎生検組織の低真空SEMでの観察像を巣状分節性糸球体硬化症のコロンビア分類に当てはめて検討した。コロンビア分類で細胞型亜型を示す腎組織の低真空SEM観察では、糸球体上皮細胞体の球形化の所見が多くみられた。一方、非特異型亜型では上皮細胞体の球形化は少なく、上皮細胞足突起の消失、癒合、伸長化などが多く認められる傾向があった。上記から、巣状分節性糸球体硬化症のコロンビア分類亜型診断において低真空SEMによる観察が有用である可能性が示唆された。 今回の結果を、糸球体疾患における腎糸球体上皮細胞障害度分類(頼岡徳在、広島大学医学雑誌28:711,1980)により評価した。その結果、ステロイド感受性ネフローゼ症候群で認められた上皮細胞足突起の一部の配列の乱れの所見は、上記分類の障害度2度に相当すると考えられた。一方、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の上皮細胞足突起の癒合変化は障害度3度に相当した。また上皮細胞の微絨毛もステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に多く認められた。本研究において低真空SEM観察で認められた上皮細胞体の球形化の所見については頼岡の分類に記載はなかった。 本年度の結果により低真空SEMの巣状分節性糸球体硬化症診断への有用性が示された。
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