本研究の目的はレニン・アンジオテンシン系(RAS)の基質であるアンジオテンシノーゲンの尿中排泄量が小児慢性糸球体腎炎患者の優れたバイオマーカーであることを証明することである。 学校検尿の普及により小児腎臓病は早期発見、早期治療が可能となった。しかしながら、その一方で治療抵抗性を示し腎不全へと進展する症例もいまだ存在する。近年、RASは全身の血圧や水分調節のみならず腎線維化などの様々な腎障害に強く関与していることが明らかとなった。そして腎臓内で発現するアンジオテンシノーゲンが腎内でのRASの活性化を示していることが証明されている。そのため、腎生検によって診断された小児慢性糸球体腎炎の患者の治療前後での尿中アンジオテンシノーゲンを測定し、腎組織病変の変化との関連を評価した。RAS阻害剤による治療を行った24名の小児IgA腎症患者について調べてみたところ、尿中アンジオテンシノーゲンは治療後に有意に低下しており腎組織におけるアンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンII、メサンギウム細胞増多も同様に低下していた。また、治療前の尿中アンジオテンシノーゲンはこれらのパラメータと正の相関関係にあった。 本研究によって尿中アンジオテンシノーゲンが腎糸球体障害に関連する腎内RAS活性化を反映していることが示唆された。また、治療による治療効果判定の優れた指標にもなり得ると考えられた。今後、さらに症例を増やし長期観察におけるデータを蓄積していけば腎疾患治療における強力なバイオマーカーとして利用し腎不全へと進展する小児難治性腎疾患患者を適切に治療し、新規透析患者を減少させることが期待できる。
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