研究課題/領域番号 |
23591570
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
香美 祥二 徳島大学, 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (00224337)
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研究分担者 |
近藤 秀治 徳島大学, 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (00380080)
六反 一仁 徳島大学, 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (10230898)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 糸球体内皮細胞 / アンジオテンシンII / ANGPTL4 / p63 / 国際情報交流 イギリス |
研究概要 |
難治性腎炎の予後改善をもたらす新たな治療法の開発は、小児医療の領域で極めて重要な課題である。我々は、腎炎により誘導される多くの遺伝子から糸球体内皮細胞(GEC)に関わる分子をDNAアレイ解析より検索した結果ANGPTL4を同定した。ラット進行性腎炎モデルのGECでANGPTL4の発現が増強し、腎炎進行因子アンジオテンシンIIを拮抗薬(ARB)で阻害することにより腎炎組織像の改善だけでなく、ANGPTL4の遺伝子および蛋白レベルで改善が見られることを明らかにした。進行性腎炎を病理組織学的に解析しGECのANGPTL4発現変化と臨床・病理像は関連していた。培養ヒトGEC(Bristol大学Peter Mathieson教授より供与:J Am Soc Nephrol 18:2885, 2007)でアンジオテンシンIIは腫瘍抑制転写因子p53ファミリーに属するが、細胞の老化現象などにも関連すること、組織の線維化等に細胞質での発現が重要であること指摘されていることから、p63はアンジオテンシンII、ANGPTL4が誘導するGEC障害に関与する可能性がある。以上の結果から、腎炎進展時のGEC障害において、アンジオテンシンII、ANGPTL4の関与と同時に、p63がこれらの分子の下流シグナルとなる可能性が示唆された。本成果は腎炎進行の端緒となるGEC障害におけるANGPTL4の分子生物学的役割を解明する上で重要であり、GEC障害阻止に基づく腎炎の新規治療法の開発の基礎となる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の成果として、1) 進行性腎炎モデル (片腎Thy1腎炎)を用いたANGPTL4の免疫組織化学的検討では、ANGPTL4の糸球体発現は臨床所見や腎組織におけるGEC障害、糸球体細胞増殖、ECM蓄積、炎症細胞浸潤と相関することが明らかになった。 2) ラット腎炎でレニンアンジオテンシン系の活性化によりANGPTL4を誘導すると同時に発現する新たな標的シグナル分子p63を見いだした。本年度は、病理組織学的検討を主に行う予定であったが、DNAマイクロアレイを用いてデータ解析を行った結果、新規シグナル標的分子p63が誘導されることが判明した。今後のAGNPTL4刺激シグナル経路の解析をすすめる上で、重要な手がかりとなるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の研究成果からはANGPTL4とp63が腎炎GEC障害に関連する可能性が示唆されたものの、これらの分子の腎炎進展に果たす詳細な役割はまだ十分に分かっていない。これらの役割を明らかにするために、刺激実験、阻害実験や発現抑制実験などを追加し検討する必要がある。現在我々は、これらの分子がGEC機能障害に関わっていると仮説を立て研究をすすめているが、従来の研究計画に基づき、1)ANGPTL4の培養GEC機能への影響(血管新生と血管透過性機能の解析)と2)GECに対するANGPTL4作用のシグナル伝達経路解析を中心に研究を進めていく方針である。第一に、アンジオテンシンIIとANGPTL4がGEC機能に関わっているかを、培養GECにアンジオテンシンIIやANGPTL4刺激やANGPTL4-siRNAノックダウンを行い細胞増殖能、アポトーシス誘導能、細胞遊走能、接着能、管腔形成能を検討する。同時に、GEC機能に重要なα5β1,αvβ3インテグリンやリガンドECM発現への影響を検討する。またAng IIによる糸球体係蹄壁の透過亢進作用が、ANGPTL4によるGEC障害を介しているかどうかを培養GECにAng IIとANGPTL4-siRNAを共作用させpermeability assayを用いて検討する。第二に、培養ヒトGECを用いて、ANGPTL4刺激後のシグナル経路を、現在想定されている血管新生に関わると考えられているシグナル伝達経路(VEGFR-PLCγ-MAPK/ERK、Angiopoietin-Tie、TGF-β-Alk1-Smad、NO合成経路-NO、Notchシグナル経路等)との関係から探索する。さらに細胞障害を誘導するAng IIシグナル経路とのクロストークを検討することにより、ANGPTL4シグナル経路を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年の研究は、1)ANGPTL4の培養GEC機能への影響(血管新生と血管透過性機能の解析)と2)GECに対するANGPTL4作用のシグナル伝達経路解析を中心し研究を進めていく方針であるが、これらは培養GECを用いた培養実験が中心である。研究計画を通じて必要な細胞培養関連試薬や培地、実験器具などの消耗品だけでなく、遺伝子発現解析(プライマーやPCR関連試薬)、蛋白発現解析(抗体、蛋白検出関連試薬)、シグナル解析(リン酸化シグナル分子を含む各種抗体、シグナル発現制御、シグナル分子発現抑制実験や発現実験に必要な消耗品)に必要な消耗品を購入することを主な使用計画としている。また、研究成果を国内外で発表すると同時に論文作成も検討しており、学会参加に伴う旅費や論文作成に必要な経費への使用を検討している。
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