研究課題/領域番号 |
23591574
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
西 順一郎 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (40295241)
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研究分担者 |
野村 裕一 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (90237884)
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キーワード | 大腸菌 / 下痢原性大腸菌 / ESBL(基質拡張型βラクタマーゼ) / 腸管凝集性大腸菌 / 細胞膨化致死毒素 |
研究概要 |
昨年度は、2004年~2010年の小児下痢症患児由来大腸菌において、腸管凝集性大腸菌(EAEC)がESBL(基質拡張型βラクタマーゼ)を有意に高頻度に産生していることを明らかにした。今年度は、2001年~2003年の株も含めが10年間の経過で、EAECとESBL遺伝子の分布状況を検討した。6,216株中EAECは149株(2.4%)、ESBL産生菌は95株(1.5%)であり、いずれも年別に増加傾向がみられた。ESBL産生EAECは、2003年から検出され2007年と2008年に比較的多く見られた。EAEC株におけるESBL遺伝子の保有率は20.8%(31/149)であり、EAEC以外の大腸菌における頻度1.1% (64/6067)に比べて有意に高かった(OR 24.6, 95% CI 15.5-39.3)。ESBL産生EAECのO抗原型はO25、O63、O153が多く、O111やO126を中心としたこれまでのEAECとは異なるパターンであり、新たなEAECクローンがESBL遺伝子を獲得したことが示唆された。またESBL産生EAECの81%(25/31)は、尿路病原性大腸菌でみられるafimbrial adhesin (afa) 遺伝子を保有していることがわかり、凝集性付着やESBL遺伝子の獲得に関与しているかどうかの検討が必要である。その他のパソタイプでは、カンピロバクターで高頻度に検出される細胞膨化致死毒素cytolethal distending toxin (CDT)に着目して遺伝子分布を検討した。小児下痢症患児由来大腸菌3,781株中84株(2.2%)がCDT遺伝子を保有しており、遺伝子型ではI型が77.4%(65/84)を占めた。わが国でもCDT産生大腸菌が比較的多く検出されることが明らかになり、今後臨床的意義について検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下痢原性大腸菌の病原遺伝子の分子疫学解析については、2001~2010年分までの6,216株についてPCR検査を終了できており計画は順調に進んでいる。また薬剤耐性遺伝子についても、同様の菌株数についてESBL遺伝子の網羅的解析が終了した。現在EAECやCDT産生大腸菌の分子疫学的解析を中心に研究を進めており成果がみられている。研究計画にある新たな迅速検出法の開発についてはまだ十分進められていないが、今後分子疫学解析の結果を待って検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、様々なパソタイプの大腸菌を解析対象としているが、2011年に欧州で志賀毒素産生性のEAECによる大規模なアウトブレイクが発生し、また欧米の小児救急医療における下痢症原因菌の疫学研究の結果から、改めてEAECの重要性が強く認識される状況になった。そのため、下痢原性大腸菌の中でもEAECを重点的に解析する必要があると考えている。今年度は、当研究室で保有するEAEC 200株及び他県の地方衛生研究所で収集されたEAEC 20株を対象に、7種類のhouse-keeping 遺伝子の内部配列を用いたMLST (multilocus Sequence Typing) 解析を予定している。その結果に基づいてEAECの系統解析を行い、血清型、付着様式、ESBL遺伝子の保有状況などとの関連性を調べ、本邦のEAECの特徴やESBL遺伝子の伝播状況を明らかにする。また、現在文部科学省科学研究費 新学術領域研究「ゲノム支援」に本課題の支援を申請中であるが、採択された場合は、EAECの系統の異なる数株について全ゲノムのドラフト配列を決定し、株間での遺伝子レパートリの比較を行う予定である。さらに、EAECのESBL遺伝子獲得についてすでに基礎的な接合実験を開始しており、EAECにおける耐性遺伝子の水平伝播メカニズムの解明をめざして継続する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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