研究課題/領域番号 |
23591583
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
内田 敬子 慶應義塾大学, 医学部, 共同研究員 (50286522)
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キーワード | 発生・分化 / 肺血管 / マイクロアレイ |
研究概要 |
実施内容:(1)成獣マウスにおける2型IP3Rの発現様式;2型IP3Rノックアウトマウス(KO)はLacZ遺伝子を挿入しているため、LacZ染色で内在性の2型IP3Rの発現様式を観察しうる。LacZ染色と中膜および内膜マーカーに対する抗体による免疫染色との共染色を実施した。成獣マウスにおいては、肺血管中膜および内膜にも発現が認められた。(2)KOを用いた低酸素暴露肺高血圧モデルの解析;野生型およびKOを低酸素下で飼育したところ、8週間以上ではKOで有意に重度の中膜肥厚が認められた。(3)肺成熟におけるCD31+Sca1+細胞数の上昇;前年度に実施した血管内皮マーカー陽性肺細胞のマイクロアレイ解析において、胎生14日よりも生後2日肺で有意に発現量が上昇する因子としてSca1に着目した。CD31+Sca1+細胞が肺成熟期に劇的に増加することがわかった。(4)成獣マウス肺から分離した単一細胞よりFACSでCD31+Sca1+細胞群を分離する方法を確立した。(5)肺発生段階におけるTbx4の発現様式;同様のマイクロアレイ解析で生後2日よりも胎生14日肺で有意に発現量が高い因子としてTbx4に着目した。in situ hybridizationによりTbx4は肺に非常に高い発現があり、肺組織の中では血管の原基となる間葉系組織に多く発現していた。(6)胎生期肺間葉系細胞の分離と初代培養法の確立;胎生14日から生後2日の肺間葉系細胞を接着法により分離し初代培養法を確立した。 意義と重要性:2型IP3Rの肺血管における役割は不明であり、KOを用いた肺高血圧モデルの解析は2型IP3Rの肺高血圧を抑制する機構の解明という点で意義がある。体血管に比べて肺血管発生は不明な点が多く、マイクロアレイ解析で得られた因子の肺血管発生における役割の解析は新たな分子機構を解明する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度はマイクロアレイ解析で得られた肺発生段階で発現量の大きく変わる6因子に着目したが、解析可能な抗体やプローブの入手が困難であったため、今年度は2因子に絞ることで、免疫組織化学およびin situ hybridization解析にて発現様式の解析を実施できた。交付申請時には今年度にin vitro tube formationおよびmigration assayを実施する予定であったが、発現様式の解析や、特にCD31+Sca1+細胞の分離および初代培養法の確立に時間を要し、解析が困難であった。現在、分離法が確立し初代培養法の条件を検討中である。また、肺組織を用いた肺血管透過性行進能の解析を実施する予定であったが、2型IP3Rノックアウトマウスの解析により、2型IP3Rが肺高血圧の抑制に関わる可能性があることがわかったため予定を変更した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞レベルおよび組織レベルで新規肺血管新生因子の機能解析を実施し、2型IP3Rの肺血管における機能を分子レベルで解析する。 (1)マイクロアレイで獲得した肺血管内皮細胞におけるSca1の役割をin vitro解析で解明する。今年度検討ずみである成獣マウス肺から分離したCD31+Sca1+細胞の初代培養を実施し、in vitro tube formation活性やmigration活性をCD31+Sca1-細胞と比較する。困難であれば、肺血管内皮細胞株を購入しSca1を強制発現またはRNAiによる発現抑制を実施する。 (2)胎生期の肺間葉系細胞の初代培養や肺組織培養を用いて、Tbx4の強制発現またはアンチセンスオリゴヌクレオチドによる発現抑制を行い、肺血管分化や脈管形成、血管新生への影響を観察する。 (3)低酸素暴露を行った2型IP3Rノックアウトマウス(KO)および野生型マウス肺を用いて一酸化窒素の代謝産物やcGMPの定量を実施し比較する。両者の肺動脈平滑筋細胞および血管内皮細胞の初代培養を用いて、細胞増殖能や細胞遊走能、および、細胞内Ca2+濃度上昇度の比較を行う。候補となる2型IP3Rの下流因子の発現量やリン酸化の程度をRTPCRやウエスタンブロットで解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度未支出額は1000円未満であり、本年度はほぼ予定通りの執行となった。次年度は、培養細胞または肺組織を用いたin vitro解析のための消耗品費、肺血管内皮細胞の分離にFACSを用いるため共同利用研委託費や機器使用料、肺高血圧モデルマウス作製にあたり、マウスの使用と飼育のために動物実験センター利用料に多くの予算が充てられる。
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