研究課題/領域番号 |
23591588
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
小川 俊一 日本医科大学, 医学部, 教授 (50194436)
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研究分担者 |
勝部 康弘 日本医科大学, 医学部, 准教授 (20246523)
深澤 隆治 日本医科大学, 医学部, 准教授 (80277566)
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キーワード | 川崎病 |
研究概要 |
本研究は川崎病類似の血管炎動物モデルを用いて、血管炎に伴い形質転換することが予測される血管平滑筋細胞の細胞機能、応答機構を免疫組織学的方法、分子生物学的方法、微小電気生理学的等を用いて解明し、さらにその結果を受けて、この系における治療戦略についても検討することにある。Candida Albicans Water Soluble Fraction(CAWS)による動脈炎モデルマウスの遺伝子パターンは我々が川崎病症例で見出したパターンと極めて類似する所見であることから、川崎病類似血管炎モデルになると判断し以下の実験を行った。 [研究方法]4-5週齢のDBA/2マウスにCAWS 0.5mgを連日5日間腹腔内投与し血管炎を生じさせる(CAWS群)。CAWSの代わりに生食を5日間連続腹腔内投与を行った群をコントロール(Cont群)とした。CAWS投与後2週間で屠殺、CAWS群およびCont群の2群間のに大動脈基部組織所見、および2群より採取した大動脈基部組織を用いて免疫組織染色を行い、血管平滑筋細胞の形質転換について検討を行った。 [結果] 1)組織学的検索:CAWS群では全例において大動脈のバルサルバから左右冠動脈分岐部にかけて強い血管炎を呈していた。2)血管平滑筋細胞が形質転換する過程に関与すると考えられる転写因子(KLF5, Erg-1)およびM-CSFの受容体であるM-CSFRの発現を比較検討したが、CAWS群ではCont群に比して有意にこれら転写因子、受容体の発現が亢進していた。 [考案]この系ではKLF5やErg-1と言った転写因子およびM-CSF(川崎病の患者で血管炎の極期に有意に上昇しており、単球からマクロファージへの転換を促進している)の受容体の発現が有意に増加しており、血管炎に伴い分化型から脱分化型に平滑筋細胞が形質転換していることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度の目標はCAWSによる川崎病類似血管炎モデルマウスを完成し、血管平滑筋細胞が血管炎に伴い分化型から脱分化型に形質転換する系を免疫組織学的、ならびに単離血管平滑筋細胞を用いてのパッチクランプ法による微小電気生理学的に解明することにあった。しかし、免疫組織学的検索にとどまり、微小電気生理学的方法による解析にまで至っていない。ただし、モデルマウスを効率よく作成することが可能となり、そこからの血管平滑筋細胞の単離も可能となったので、平成25年度には現在の遅れを取り戻し、本研究を完結することが十分に可能と考える。
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今後の研究の推進方策 |
CAWSによる川崎病類似血管炎モデルマウスを用いて以下の実験を行う。 1) 血管平滑筋細胞の単離、および各培養細胞の作成:大動脈基部組織より単離した血管平滑筋細胞を作成する。デイッシュ内に細胞数が1x 100000個/mlになるように調整し培養液と共に37℃、95%O2, 5%CO2下にて培養する。2) 血管平滑筋細胞に対する微小電気生理学的検討:CAWS群およびCont群の動脈組織より得られた単離血管平滑筋細胞に対してパッチクランプ法を用いてwhole cell 膜電位依存性CaチャンネルおよびKチャンネル 電流の測定を行う。3) 各培養細胞よりのmRNAの抽出:血管炎が惹起された血管平滑筋細胞および対照の血管平滑筋細胞の培養細胞よりmRNAを抽出する。4) DNAチップによる網 羅的遺伝子発現の評価:DNAチップおよびDNAプロファイリング解析装置を用いて各種培養平滑筋細胞に発現するシグナルを検討する。5)定量PCRによる遺伝子発現量の検討:遺伝子プロファイリング解析の結果から発現の変動が確認された遺伝子についてはプローブを用いて TaqMan PCRにより定量PCRを行い、遺伝子発現を定量する。6)ARB(AngiotensionIIreceptor blocker)による血管平滑筋細胞の形質転換阻止効果の判定:CAWS 1mg/mouseおよび生食を腹腔内に投与した4-5週齢のDBA/2系マウスに対して、ARB 0.2μg/g(マウス体重)および2μg/gの経口内服を行い血管平滑筋細胞の形質転換阻止効果を検討する。ARBはCAWSの腹腔内投与と同時または投与終了直後より開始し、屠殺直前まで継続する。屠殺後に上記免疫組織学的、微小電気生理学的、分子生物学的検討を行い、ARBによる血管平滑筋細胞の形質転換阻止効果を検討る。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験を遂行するための設備については新たな購入をしなくても現状で十分対応できると考える。 研究費の中で一番占める割合が大きいのは実験動物費であり、約30%を占める予定である。その他、薬品・試薬代、実験器具代、消耗品各種代、各種抗体およびプローブの作成料、定量PCRキットが約50%。学会での報告および調査に関わる費用が約20%と推定している。
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