本研究の目的は,新生児慢性肺疾患のリスク因子であるびまん性絨毛膜羊膜ヘモジデローシス(以下DCH)が,胎仔ならびに新生仔肺の成長発達に与える影響とそのメカニズムを解明することである.われわれはDCHを生じる病態で,胎児肺に損傷もしくは成長障害を誘導する物質として赤血球中の鉄に注目した.予備実験において,WKAH/Hkm妊娠ラットの羊水腔内に鉄を注入すれば,その24時間後には胎盤胎仔面と卵膜に鉄沈着が観察され,胎生期肺に肺胞化の停滞が誘導されることを確認した (DCHモデルラット).本研究期間には,好中球浸潤による急性炎症が胎仔肺に成長障害を誘導するという仮説を証明するため,新生仔期のDCHモデルラットを用いて組織モルフォメトリー,サイトカイン動態などについて解析する計画を立てた. 平成23-25年度は,新生仔期の実験系確立と胎仔肺損傷の原因検索にあてた.母獣ラットの分娩育仔成功率は,WKAH/H㎞ラットで13% (8例中1例),SDラットで75% (8例中6例) であったため,新生仔ラット肺の解析にはSDラットを採用した.また,鉄暴露後12時間と24時間いずれの胎仔肺においても急性炎症が観察されなかったため,5種類の組織染色を追加した. 平成26年度は,生後10日(鉄群6例,対照群7例)と61日(鉄群4例,対照群4例)の新生仔ラット肺にモルフォメトリー解析を行い,いずれの時期にも胎仔期と同様の肺胞化の停滞が確認された.胎仔期の鉄暴露による肺胞化の停滞は出生後も持続し,成獣期まで継続する可能性が示唆された.この肺胞化障害の特徴を明らかにするため,本研究で得られた肺組織に胎仔肺組織で追加した5種類の組織染色について解析を継続している.
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