研究課題/領域番号 |
23591609
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所) |
研究代表者 |
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), 免疫部門, 部長 (60314415)
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研究分担者 |
中平 久美子 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), 免疫部門, 流動研究員 (20581317)
西海 史子 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター(研究所), 免疫部門, 研究技術員 (60599596)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ウレアプラズマ / 早産 / ワクチン |
研究概要 |
先進諸国に共通する問題として少子化と早産率の上昇があり、人類の存亡に関わる最重要課題である。わが国の早産率はおよそ 6% で、年間6万人程度が37週未満で出生している。早産児の重篤且つ永続的な合併症として、呼吸器障害、神経障害などが起こる場合がある。その原因の約半数に細菌感染や、病理的な絨毛膜羊膜炎(CAM)が認められる。我々は、CAM の起因微生物としてウレアプラズマの重要性を見出した(Ped Res, 2010)。ウレアプラズマはマイコプラズマ科に属し細胞壁を欠くことから、ベータラクタム系抗菌薬は無効である。また、近年マイコプラズマ科の細菌にはマクロライドに対する耐性菌の出現が問題となっており、抗菌薬の治療に苦慮する場合も多い。臨床的には感染性早産の制御は難しく、胎内感染暴露時間が児の予後を左右することから、予防的な効果が期待できるワクチンの開発を目指した。ウレアプラズマは全ゲノム配列の決定がされたものの、主要な病原因子が見つからなかった為、いまだに常在菌か、病原細菌かという議論が尽きない。そこでウレアプラズマの病原因子の同定を行い、同定した病原因子(MBA)が妊娠マウスモデルにおいて早産や胎内死亡を起こすことを示した。このことは免疫的に寛容となる妊娠期においては、低病原性細菌であるウレアプラズマが病原性を発揮するポテンシャルを持つことを示した。さらに、病原因子蛋白質MBAのレコンビナント蛋白質の精製系を確立し、ワクチン開発の基盤となる分子を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CAMが早産胎盤に特徴的な病理像であることは知られていた。しかしながら、わが国においてその多くの起因微生物の同定がなされていなかった。本研究に先立ち、CAMを合併する早産児では高IgM血症を認めることから、この標的分子の同定を行った。その結果、自己抗原であるアネキシンA2を見出し、世界で初めてとなる胎児期に起こる自己免疫的な病態として報告した(Ped Res, 2006)。次に種々の細菌学的な解析を行い、疫学的にウレアプラズマの重要性を見出した(Ped Res, 2010)。しかしながら、病原性の証明のためには、Kochの原則に従い、且つ現代的な分子生物学的な技術を駆使して病態を再現しなければ病原細菌としての証明はできない。そこで、ウレアプラズマの膜蛋白質であるMBAに着目し、26週で早産した患者より分離されたウレアプラズマよりTriton X-114による2層分離法にてMBAの精製を行った。HeLa細胞にtoll-like receptor 2を強制発現させ、さらにNF-kB応答配列の下流にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだベクターを発現したアッセイ系を作製した。この細胞に精製MBAを作用させ、NF-kBの活性化について測定したところ、有意な上昇を認めた。一方、精製したMBAにその他の免疫反応惹起分子が混入していないことを否定できないことから、MBAペプチドにマイコプラズマ科の特徴であるジアシル化した合成リポペプチドUPM-1を作成した。このUPM-1を用いた系でも同様に免疫反応を惹起した。次に妊娠マウスにUPM-1、精製MBAを投与したところ、有意に胎内死亡及び早産を起こした。MBAレコンビナント蛋白質の大腸菌発現系を作製し、膜蛋白質MBAの精製に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
精製したレコンビナントMBAを用いて、マウスを免疫する。その後、マウスにおける抗体価を測定し、高い抗体価を示すレコンビナント蛋白質の部位などの同定を行う予定である。さて、ウレアプラズマは健常女性の膣内、尿中からも分離される。つまり、妊娠期に閉鎖空間である子宮内に到達しなければ、あるいは免疫不全状態にない人にとっては、特に病態を引起すものではないと考えられる。我々は、胎盤におけるウレアプラズマのレセプター分子である硫化糖脂質は、羊膜細胞に多く認められることを報告した(Ped Res, 2010)。しかしながら羊膜への到達経路については実は証明した報告がない。そこで、in vivoイメージャーを用いて妊娠マウスにおけるウレアプラズマの子宮内への到達経路の観察を行う。蛍光色素をつけた生菌ウレアプラズマはすでに作製した。この蛍光ウレアプラズマを培養HeLa細胞に添加すると、HeLa細胞の増殖抑制を引起す。これらの知見を基に、ウレアプラズマの妊娠動物における子宮内到達経路について検証したい。さらに本研究における最終目的である、MBAによる免疫動物におけるワクチン効果の検証に進みたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費使用はウレアプラズマによる病態形成の解析、ワクチン開発の基盤技術をin vitro及びin vivoで構築する為に必要な消耗品等購入を行う。また、関連学会への参加発表のための経費、データ整理のための人件費・謝金、データ整理のためのパソコン関連費用、その他諸経費に適正に利用する。
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