研究課題/領域番号 |
23591614
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
原田 和俊 山梨大学, 医学部附属病院, 講師 (20324197)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 悪性黒色腫 / キナーゼ阻害薬 / シグナル伝達系 |
研究概要 |
当科ではキナーゼ阻害薬であるイマチニブに投与により転移巣および原発巣が縮小し、生存期間が延長した進行期悪性黒色腫症例を経験した。しかし、すべての悪性黒色腫に対して、イマチニブが著効する訳ではない。我々はなぜ、イマチニブをはじめとするキナーゼ阻害薬に治療効果を示す症例と、治療効果がない症例があるのか、そのメカニズムの解明を目指すこととした。そのメカニズムを解明することで、悪性黒色腫の増殖抑制におけるキナーゼ阻害薬の作用機序を説明できると考えたからである。まず、我々はWntシグナルに注目した。Wntシグナルは発癌、発生などに関与する重要なシグナル伝達系である。悪性黒色腫においても、Wntシグナルの異常な活性化が起こることが報告されていている。そこで、当科で加療した悪性黒色腫患者から樹立した悪性黒色腫細胞株及び他の研究室から導入された悪性黒色腫細胞株を用いて、細胞株ごとのWntシグナルの活性化状況を調べることとした。具体的には、Wntシグナル伝達系のkey moleculeである、beta-cateninの発現量を免疫組織染色とウエスタンブロットで検討した。その結果、細胞株ごとにbeta-cateninの発現量に差があるとことが解明された。今後、悪性黒色腫細胞株のbeta-cateninの発現量の差でイマチニブの感受性が異なるかどうか、すなわち、症例ごとのイマチニブの治療効果の差がWntシグナルの活性化の差で説明できるかどうかを検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、初代培養色素細胞にconstitutive activeな変異をもつKit遺伝子を導入した細胞株の樹立を目指したが、導入が成功しなかった。この理由として、細胞は持続的な増殖シグナルが入るとapoptosisに陥るか、p16をはじめとするsenescenceを引き起こす遺伝子の発現が誘導される。このため、Kit遺伝子導入細胞株の樹立が難しいと考えた。そこで、すでに樹立されている悪性黒色腫細胞株を使用することとした。細胞株ごとのKitの発現を検討するとともに、細胞株ごとのWntシグナルの活性化状態の違いも、キナーゼ阻害薬の効果に影響するかどうかを調べることとした。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、Kit変異細胞株の樹立が難しいため、悪性黒色腫細胞株を使用することとした。細胞株ごとにKit及びWntシグナルなどの他の発癌に重要なシグナル伝達系の活性化状態を調べ、キナーゼ阻害薬の効果をin vitroで検討する。また、細胞株に対するキナーゼ阻害薬の増殖抑制が認められない場合には、他の薬剤と併用することで、効果が現れるかどうか検討する。具体的には消炎鎮痛剤であるCOX-2阻害薬はWntシグナルを抑制する可能性が示唆されているので、この薬剤を用いて、増殖抑制を検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述したように、初代培養色素細胞に遺伝子導入を試みたが、導入が不成功に終わったため、初代培養色素細胞の購入量が予定より下回り、繰越金が生じた。これらは下記の次年度の試薬購入に充てる予定である。細胞株にキナーゼ阻害薬を加え、増殖抑制の程度をMTT assayなどを用いて検討する。従って、これらの試薬購入が必要である。また、イマチニブを初めとするキナーゼ阻害薬、その他悪性黒色腫の増殖抑制効果が期待される薬剤を購入する。また、薬剤添加による下流遺伝子の活性化を検討する。その際にリン酸化抗体が必要となる。また、リン酸化状態は免疫組織染色、Western blotによって、検索するので、これら実験に必要な試薬の購入費が必要である。
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