研究課題/領域番号 |
23591615
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
奥山 隆平 信州大学, 医学部, 教授 (80292332)
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キーワード | Runx / p63 / p53 / 表皮 / 有棘細胞癌 |
研究概要 |
表皮細胞の増殖と分化の制御に関して、Runx1とRunx3に焦点をあてて解析を進めた。Runxの働きを増強したり、減弱させたりした上で、表皮細胞の性質の変化を調べた。Runxの働きを増強するためには、Runx1もしくはRunx3を組み込んだアデノウイルスベクターを用いて過剰発現させた。一方、Runx1とRunx3の働きを抑えるためには、特異的なsiRNAを利用した。また、アデノウイルスベクターを用いてdominant negativeなmutant Runxを表皮細胞に過剰発現した。 増殖に関しては、Runx1やRunx3を過剰発現させると増殖が抑制されることがわかった。一方、siRNAを用いて発現を抑制しても増殖に変化は生じなかった。dominant negative Runxでも増殖は変化しなかった点から、未分化で盛んに増殖している状態ではRunxは増殖にあまり働いておらず、分化して増殖が停止するような状態で働いているのではないかと予想された。 分化に関しては、Runx1やRunx3を過剰発現させると有棘層で発現するケラチン1やケラチン10の発現が抑制された。逆にsiRNAやdominant negative Runxでその働きを抑えるとケラチン1やケラチン10の発現が亢進した。よって、Runx1とRunx3はともに表皮細胞の分化を抑えるブレーキの働きを有していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表皮細胞におけるRunx1とRunx3の増殖と分化に対する基本的な働きをin vitroレベルで明らかにすることができた。結果は非常にクリアーであった。また、Runx1とRunx3の働きを強めたり弱めたりすることが可能となった。今後in vitroで、そのmolecular mechanismを掘り下げていくことが可能な状況となった。
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今後の研究の推進方策 |
Runxが増殖や分化をどのような機序で制御しているのか解析を進める。1つには、microarrayを用いてRunxの下流で発現が変化する分子を網羅的に調べる。この過程でピックアップされた分子に関しては、その転写調節領域にRunx、さらにはp63が結合しないかクロマチン免疫沈降法を用いて解析する予定である。 また、Runx1やRunx3がケラチン1やケラチン10の発現を抑制するので、その転写調節領域にRunxが結合するのかChromatin immunoprecipitation法を用いて解析する。 さらに、Runx1やRunx3の働きをin vivoレベルで解析する。Runx1f/fマウスやRunx3f/fマウスと、Keratin 5 Cre recombinaseマウスの交配を進める。皮膚での組織特異的にRunx1やRunx3を欠失させ、表皮細胞の増殖と分化の変化を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
In vitroでの解析は表皮細胞を初代培養し、遺伝子導入した上で、タンパク質、RNA、DNA等を回収して、分子細胞生物学的な解析を行う。microarray用の試薬等とChromatin immunoprecipitation法などの分子生物学的もしくは生化学的な試薬に対して研究費を用いる。また、遺伝子改変マウスの繁殖とgenotyping用の試薬に対しても研究費を用いる。 さらに情報を収集し、また一部の成果を発表するために、学会参加や共同研究の打ち合わせ等が必要となる。そのため、研究費の一部を旅費に用いる。さらに結果をまとめて論文投稿を行うために、英文校正費や投稿経費にも研究費を用いる予定である。 なお、当初計画で見込んだよりも安価に研究が完了したため、前年度未使用額が生じた。
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