研究課題/領域番号 |
23591623
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
師井 洋一 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40264022)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 悪性黒色腫 / CD10 / 予後因子 |
研究概要 |
今までの研究の結果、悪性黒色腫患者において原発病巣でCD10 を高発現する症例では,そうではない症例に比較して予後が悪いことが判明した(J Am Acad Dermatol 65; 1152, 2011)。その生物学的メカニズムを検討する目的で、CD10をほとんど発現していないヒトメラノーマ細胞株A375にCD10遺伝子およびそのベクターのみをトランスフェクトしたCD10-A375とvec-A375を作成した。この2系列の細胞株について各種生物学的検討を行った。(1)in vitroでの増殖能の比較:MTTアッセイによってCD10陽性A375細胞の方がCD10陰性A375細胞よりも有意に増殖能が高いことが判明した。(2)抗癌剤によるアポトーシス誘導:etoposideによる誘導ではCD10-A375の方がAnnexin V陽性細胞数が少なく、(抗癌剤の細胞毒性に対する)アポトーシス抵抗性が高いと思われた。gemcitabineでも同様の結果であった。(3)ヌードマウスにおけるin vivoでの腫瘍増殖能:CD10-A375の方がvec-A375よりも有意に腫瘍発育が早いことが観察された。さらにCD10-A375には潰瘍形成傾向があった。また,予備実験ながらCD10の酵素活性阻害薬:phosphoramidonを担癌ヌードマウスへ投与したところ、CD10-A375で阻害薬投与群のほうが 阻害薬非投与群に比べ腫瘍の増殖が遅延していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はCD10陰性の悪性黒色腫株にCD10トランスフェクタントを作成し、in vitroで増殖能を確認後,in vivoでの増殖能を確認、アポトーシス抵抗性を確認、浸潤能の検討、それぞれCD10発現を増強させるIL-1 αの添加による変化を観察する,予定であった。上記の成果から,おおむね順調であると考えられる。最低限と考えていた、トランスフェクタントを作成することができ,それぞれ増殖能の比較実験がほぼ終了している。IL-1αによる増殖能などの変化は今後施行予定である。当初,CD10の阻害には抗体による抑制を想定していたが,調査の結果、特異的酵素活性阻害剤phosphoramidon、さらには同じくthiorphanが入手できることが判明したため,この薬剤を用いて、移行の実験を継続する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
in vivoの増殖実験において,CD10特異的酵素阻害剤有無による違いを更に検討し,それらヌードマウス上に形成された腫瘍を摘出し,RT-PCR,免疫組織化学染色などで,様々な腫瘍関連因子の発現を比較する。同様の実験をin vitroの増殖実験系でも施行し、IL-1αによる増殖能などの変化も検討する。癌の悪性度において、増殖とともに重要な運動能についても、検討を加える予定である。具体的には,スクラッチアッセイと呼ばれる方法,すなわちin vitroで腫瘍を増殖させた後,その細胞シートを掻爬することで無細胞領域を形成し、その後の細胞の無細胞領域への遊走能を測定する方法で行う予定である。前述のように、phosphoramidonおよび、thiorphanが入手できることが判明したため,この薬剤を用いて、以降の実験を継続する予定である。特に,アミノ酸分解酵素であるCD10によって活性化、不活化される標的のペプチドを同定するためにも、これらの阻害剤は有用であると思われる。また、当初懸念していた抗体製剤使用によるCD10発現細胞自体への影響を考慮せずに実験を遂行できることから、有用性は極めて高い。 高発現のトランスフェクタントCD10-A375が作成できたため,vec-A375および親株であるA375との遺伝子発現の比較を、DNAマイクロアレイを用いて行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
基本的に今までの実験を繰り返して,その再現性を確認する。DNAマイクロアレイを用いて、CD10-A375と vec-A375との遺伝子発現の比較を行い,CD10発現による予後悪化の原因を探索する。DNAマイクロアレイ検討では,結果の解析に関しても業者に依頼する必要があり,その資金も計上する必要がある。CD10の標的ペプチドの候補を決定するためにも、合成ペプチドを作成する必要が生じる可能性がある。基本的には機器はそろっており,単価少額の消耗品での支出となる予定である。
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