健常人や色素性乾皮症などのDNA修復(ヌクレオチド除去修復:NER)欠損疾患のサンバーン、悪性腫瘍、神経症状の予防にはDNA損傷の生成予防とともにNERの亢進が重要である。これまでに、cAMP濃度上昇とCREB活性化によりNERが亢進することを報告してきた。市販されている薬剤の中にこれらの作用を持つものがあり、これらの外用あるいは全身投与により、皮膚および脳神経系細胞のNERを亢進し、紫外線皮膚傷害や神経症状を予防する新しい方法を開発するための基礎的実験を行った。 cAMP濃度上昇、CREB活性化作用を持つ薬剤としてDBcAMPを使用したが、正常ヒト線維芽細胞ではDBcAMP投与により紫外線抵抗性とはならなかった。もともと充分なDNA修復能を持つ細胞のNER活性をさらに亢進させることは困難であると考えた。我々はこれまでに、ラットを用いて、神経系細胞のNER活性は線維芽細胞よりも低いこと報告している。このため、理化学研究所より神経芽細胞腫と乏突起神経膠腫の培養細胞を購入し、紫外線感受性を線維芽細胞と比較した。神経芽細胞腫細胞は線維芽細胞よりも紫外線感受性であり、4日間のDBcAMP処理後に紫外線を照射したところ、DBcAMPが神経芽細胞腫細胞の紫外線感受性を回復させ、DBcAMPが神経芽細胞腫細胞のNER活性を亢進させる可能性が示唆された。 色素性乾皮症の神経症状発症には、NERで修復される酸化的DNA損傷であるサイクロプリンが関与することが推測されている。DBcAMPが神経芽細胞腫細胞のサイクロプリン修復能を亢進することができるか検討するために、サイクロプリンを認識するモノクローナル抗体の樹立を試み、世界で初めて成功した。そして、ELISA法や免疫蛍光染色法により、サイクロプリンの修復能を定量あるいは可視化する実験系を確立した。
|