B-RAF(V600E)の変異は白人由来のメラノーマの60-70%に共通した重要ながん原性変異である。さらに、他のがん細胞と同様、再発や転移など多くの難治性メラノーマではDNAメチル化異常とヒストン修飾異常が知られており(エピジェネティック修飾)、これらの異常はがん細胞の遺伝子発現の抑制の原因となっている。類似のエピジェネティック修飾は非小細胞肺癌細胞のがん原遺伝子であるKRAS変異を有するものでも観察されている。KRAS変異を有する非小細胞肺癌細胞株はヒストン脱アセチル化阻害剤の付与にもかかわらず、ヒストンH3(Lys9)のアセチル化回復に耐性を示した。またIFN-lamdaによるエピジェネティック修飾の改善は非小細胞肺癌細胞においても不可能であった。これらメラノーマとの非小細胞肺癌における共通の主要細胞活性化はRAS-RAF-MAPK経路を経由しており、メラノーマのみならず上皮系がんにおける治療抵抗性の重要な経路と考えられた。さらに前年度に実施した複数のヒストン脱アセチル化阻害剤を用いて治療感受性増幅の結果に基づいて、(B-RAF(V600E)の変異をもたない)マウスB16F10メラノーマ細胞を用いて放射線感受性による細胞死誘導を試験した。その結果、X線や陽子線などと比べて高いエネルルギーを与える重粒子線に対して顕著な治療増感効果を示すことが判明した。本邦ではB-RAF(V600E)の変異をもつメラノーマの発生率が低いことを考えると、エピジェネティック修飾と重粒子線照射に対する治療感受性の増強は将来的に重要な課題となろう。さらに、エピジェネティック修飾に耐性要因となるRAS-RAF-MAPK経路の阻害療法の開発はB-RAF(V600E)分子標的治療の適応外の難治性メラノーマに対する新機軸になると考えられる。
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