研究課題/領域番号 |
23591631
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
鈴木 良弘 日本大学, 医学部, 助教 (80206549)
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キーワード | TRAIL / melanoma / KATP / endoplasmic reticulum / ROS |
研究概要 |
TRAIL感受性の制御におけるROSの役割を明らかにするために、まず、ROSの一つであるH2O2がTRAIL感受性に影響を及ぼすかどうかを調べた。その結果、低濃度(30‒100 μM)のH2O2はヒトメラノーマ細胞のTRAIL感受性を著しく増大させること、この効果はH2O2それ自身ではなく、二次的にミトコンドリアで産生されるスーパーオキシドによることを明らかにした。ミトコンドリアのROS産生の主要な場である電子伝達系の複合体I およびIIIの特異的阻害剤であるrotenoneおよび antimycin Aによる解析から、複合体I およびIIIの阻害によってメラノーマ細胞に顕著なROS産生が惹起され、TRAIL感受性が増大することが明らかとなった。さらに、このミトコンドリア由来ROSが従来のミトコンドリア依存性アポトーシス経路だけではなく、小胞体ストレスを介したアポトーシス経路を増強することを発見した。これらの発見の意義は、ミトコンドリアにおけるROS産生が、TRAIL感受性調節因子であることを明らかにしたことおよびアポトーシス調節におけるミトコンドリアと小胞体の共同作業を示唆した点にある。これらの発見はまたROS産生増強剤が、メラノーマ細胞のTRAIL感受性を増大させる薬剤の候補となる可能性を示しており、臨床的にも意義深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の平成24年度の研究計画は、(1) KATP阻害剤のガン細胞特異性の検討および (2) メラノーマの TRAIL受容体発現解析とKATP阻害剤による修飾作用の検討であった。(1)に関しては、KATP阻害剤は初代培養メラノサイトに毒性を示さず、ガン細胞特異性を示すことが明らかとなった。(2)については、間接蛍光抗体法ならびにフローサイトメトリーによる解析からKATP阻害剤 U37883A、GlibenclamideのいずれもDR4およびDR5の細胞表面の発現を有意に増強することがわかった。しかしながら、ウエスタンブロッティングではU37883A によるDR5タンパクの発現増強のみしか検出できなかった。Glibenclamideが細胞表面の発現だけを増強するのかどうかは現在のところ不明である。当初予定していたDcR発現に対する作用の検討は、KATP阻害剤の効果がDcRを介さずに起きていることを示唆したことから行なわないことにした。その代わりにROSの役割について解析を行い、上記の成果を得た。したがって、研究計画は順調に達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後最も重要な課題の一つは、ROSによる小胞体ストレス制御における標的分子の同定とアポトーシス調節における役割の解明である。これまでの研究から、XBP-1と Caspase-12がKATP阻害剤による小胞体ストレスに関与することがわかっているが、これらの分子の機能がROSによって制御されているかどうかを調べる必要があろう。もう一つ重要なことはXBP-1と Caspase-12は、細胞および刺激の種類によってpro-apoptoticまたは anti-apoptoticのそのいずれにも働くことが報告されているので、メラノーマの TRAIL誘導性アポトーシスにおいてそのどちらに機能しているかを明らかにすることである。さらに、ミトコンドリアと小胞体の共同作業の分子的基盤を明らかにするため、ミトコンドリアおよび小胞体の動態に対するKATP阻害剤の作用を蛍光顕微鏡で解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 物品費として、細胞培養用消耗品、フローサイトメトリー用抗体、ROS測定用各種蛍光プローブを購入する。 2. ミトコンドリア、小胞体および核の動態解析用に各オルガネラ選択的蛍光プローブ、特異的抗体、gene silencing用 siRNAならびに顕微鏡用消耗品を購入する。 3. 研究成果発表用費として論文の掲載料、カラーチャージ、国際学会参加費を使用する。
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