研究概要 |
本研究は、ATP感受性カリウムチャネル(KATP) チャネル阻害剤が、細胞膜脱分極を誘導して、ヒトメラノーマ細胞のTRAIL感受性を増強するという研究代表者の発見(Suzuki et al., 2012)を基にして、これを利用したTRAIL抵抗性悪性メラノーマの治療における分子基盤を確立する目的で行われた。その結果以下のような主要な成果が得られた。(1) KATP チャネル阻害剤によるTRAIL感受性の増強は、メラノーマのみならず、白血病、肺ガン細胞でも見られ、由来の異なる腫瘍細胞でも共通に認められること、(2) KATP チャネル阻害剤は正常細胞(初代培養メラノサイト、線維芽細胞)のTRAIL感受性にはほとんど影響を与えず、その作用が腫瘍選択的であること、およびこれらの細胞では細胞膜脱分極を誘導しないこと、(3) KATP チャネル阻害剤によるTRAIL感受性増強作用には、TRAIL受容体の細胞表面の発現の上方制御およびミトコンドリアならびに小胞体を介するアポトーシス経路の増強が関与すること、(4) これらのアポトーシス経路の増強はミトコンドリア内活性酸素(ROS)がメディエートしており、細胞膜脱分極とミトコンドリア内ROSが相互的に制御をおこなっていること等を明らかにした。最近、ROSが腫瘍選択的なアポトーシスの誘発における有力な標的となることが示され、注目されている。腫瘍はがん遺伝子による形質転換ならびにその遺伝子の不安定性によって正常細胞に比較して定常状態でも細胞内ROSレベルが高く、その結果酸化ストレス誘発薬剤に対して、より脆弱で、選択的にアポトーシスが誘導される。本研究から細胞膜脱分極とROSの密接な関係が初めて明らかにされた。本研究の成果は、KATP チャネル阻害剤によるTRAIL感受性増強作用の分子基盤を与えるだけでなく、ROSによる腫瘍選択的細胞死の分子標的の同定にも道を拓くことが期待される。
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