研究課題/領域番号 |
23591644
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
板見 智 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30136791)
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研究分担者 |
乾 重樹 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30324750)
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キーワード | 毛包 / 幹細胞 / 再生 / LRIG1 / 核内レセプター / MED1 |
研究概要 |
1. 成長期への移行や創傷治癒には毛包に存在する幹細胞が間葉系の毛乳頭細胞や真皮繊維芽細胞(いわゆる幹細胞のニッチ)からのシグナルにより活性化され再生に必要な娘細胞を供給すると考えられている。我々はLRIG1という1回膜貫通型蛋白が毛隆起の直上にあるjunctional zoneに局在する角化幹細胞に特異的に発現し、ErbB レセプターを介するシグナルを負に制御して表皮と脂腺の恒常性を維持するために機能していることを明らかにしてきた。さらに腸管の幹細胞にも発現しており、その増殖を負に制御することで腸管幹細胞の恒常性を維持していることも見出した(Nat Cell Biol. 14(4):401-8, 2012)。 2. ステロイドレセプターなどの核内レセプターは数々の共役因子と複合体を形成して下流遺伝子の転写を活性化するが、特にMediator complexと結合する事が重要である。この複合体の中でMED1は中心的な役割を果たしていると考えられており、MED1遺伝子欠損マウスは胎生致死であり器官形成におけるその重要性が示されている。我々はCre-loxPシステムを用いて皮膚角化細胞特異的にMED1遺伝子を欠失させたマウス(MED1epi-/-)を作成し毛周期を検討したところ、休止期の維持に異常を認め毛包幹細胞が減少していくことを確認した。このことよりMED1が毛包バルジ幹細胞におけるSox9の発現維持に必須であることを明らかにした(J Invest Dermatol. 133: 354-360, 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.LRIG1の機能解析については、共同研究により多くの新知見を得ることが出来た。可溶型LRIG1の存在とその機能解析は我々が以前明らかにした扁平上皮癌におけるLRIG1発現低下に対して細胞外ドメインのみの可溶型LRIG1による分子標的治療薬の可能性を示唆した。またLRIG1が皮膚のみならず腸管などの幹細胞においても非常に重要な機能を担っているという知見は幹細胞研究に重要な情報を提供できた。 2.角化細胞内における核内レセプターによる下流遺伝子の転写活性化にMED1が必須であり、角化幹細胞維持に重要なSox9の発現維持機能を有するという新しい知見を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
MED1の毛包での作用機構解析がやや遅れたため24年度の研究費に未使用額が生じたが、次年度に納入されるため今年度行う予定の研究計画と併せて実施する。角化細胞内での核内レセプターの機能について今後はMED1epi-/-マウスにおける皮膚の恒常性維持機構の解析を重点的に行う。さらにLED照射の皮膚再生に関する新知見を得ており、その機能解析も行う予定である。 1.MED1epi-/-マウスにおける創傷治癒の検討 MED1epi-/-マウスでは週齢の違いによる創傷治癒速度に顕著な差を認めるため、正常角化細胞とのマイクロアレイで創傷治癒に関連する候補分子を探索したところ、MED1epi-/-マウスではSox9以外にFollistatinなどの発現低下が認められた。mRNAと蛋白発現を確認し、その下流のシグナル伝達機構についてはヒトキナーゼに対するリン酸化部位特異的抗体をスポットしたアレイで、部位特異的にリン酸化されたセリン、スレオニン、チロシンキナーゼを検討する予定である。 2. LEDによる皮膚再生機構 最適照射波長、時間について創傷治癒や毛周期の進行に関わる細胞成長因子産生をマウスとヒト培養毛乳頭細胞を用いて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画に必要な機器はすでに有しており、研究費はおもに消耗品に使用する。培養関連試薬としては毛乳頭細胞のために牛胎児血清(1 リットルにつき約2 万円)、角化細胞培養液(1 リットルにつき約2.5 万円)を使用する。分子生物学的手法を行うための試薬(例:トランスフェクション試薬が1000 サンプルで約20 万円)の購入やリン酸化アレイ法プレートは1 枚あたり約10 万円を必要とする。さらに数種類の抗体(例:リン酸化JNK抗体が5.3万円など)の購入に使用する。
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