研究課題
ホスホリパーゼCε(PLCε)を皮膚keratinocyte特異的に強発現するトランスジェニックマウス(K5-PLCε-TGマウス)を作成したところ、同マウスの皮膚には生後9日後より鱗屑、表皮肥厚、不全角化、好中球の表皮内浸潤など尋常性乾癬に類似した臨床的・組織学的変化が生じ、皮膚浸潤細胞におけるサイトカイン発現などの免疫学的側面もほぼヒトの尋常性乾癬に合致することを見いだした。また、ヒトの尋常性乾癬でみられる活性化STAT3発現もこのマウスの皮膚で起こっていることが確認された。K5-PLCε-TGマウス皮膚に紫外線を照射すると野生型マウスに比べ著明な好中球浸潤と表皮肥厚がみられた。また、K5-PLCε-TGマウス皮膚では創傷治癒能が亢進していることが明らかとなった。さらに、K5-PLCε-TGマウスの眼では白内障が自然発症していることが明らかとなった。一方、PLCεのノックアウトマウス(PLCε-KOマウス)では、紫外線による皮膚への好中球浸潤と表皮肥厚が野生型マウスに比べて著明に減少していることを確認した。PLCε-KOマウス皮膚では、紫外線による好中球遊走性ケモカインCXCL1誘導が野生型マウスに比べて低下していることが、PLCε-KOマウス皮膚で紫外線による好中球浸潤が野生型マウスに比べて軽度である理由と考えた。また、PLCε-KOマウスでは紫外線による角膜炎症と白内障が、野生型マウスに比べて起こりにくいことを観察した。さらに、PLCε-KOマウスでは野生型マウスに比べて紫外線による皮膚発癌が亢進していることを見出した。その機序としてPLCε-KOマウスでは紫外線による皮膚角化細胞のアポトーシスが起こりにくく、そのため遺伝子変異を起こした細胞が生き残りやすくなるためであると想定した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、紫外線皮膚炎症と紫外線白内障におけるPLCεの役割解析をほぼ終了したため。
1)紫外線皮膚発癌におけるPLCεの役割の解明我々が見いだしたPLCεノックアウトマウスで ultraviolet B (UVB) による皮膚発癌が亢進する現象の理由を、イニシエーション時のcyclobutane pyrimidine dimmer (CPD) 生成、プロモーション時の炎症反応、紫外線による皮膚免疫機能の変化に重要なinterleukin (IL)-10、IL-12の発現などにおけるPLCεの関与の有無を調べることによって明らかにする。また、K5-PLCε-TGマウスに慢性UVB刺激を与え、紫外線皮膚発癌におけるPLCεの関与の再確認を行う。2)乾癬におけるPLCεの関与の解明我々が作成したK5-PLCε-TGマウスは乾癬様皮疹を自然発症するが、ヒトの乾癬におけるPLCεの関与は未だ検討されていない。本研究では、ヒトの皮膚サンプルを用いて、ヒトの乾癬におけるPLCεの関与の有無を明らかにする。
ヒトの皮膚サンプルを用いて、ヒトの乾癬におけるPLCεの関与の有無を明らかにするためのPLCεに関する抗体や、PLCεの下流シグナルの検討のために必要な各種シグナル伝達関連分子に対する抗体を含めた免疫学的試薬に40万円使用する。マウス皮膚に種々の刺激を加えたあと、各種サイトカイン、ケモカインの発現量をRT-PCRで解析するための生化学的試薬18万円使用する。マウス皮膚から角化細胞を培養するための細胞培養関連試薬として15万円使用する。研究成果を外国語論文として発表するので、外国語論文の校閲費、研究成果投稿料ならびに論文別冊費を計上した。
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件)
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