本研究期間中に我々は毛包から一度増殖させてから再度幹細胞培養液に戻して作成するという、幹細胞の効率のよい分離法を開発した。そしてこの毛包幹細胞を用いてES細胞やiPS細胞による臨床応用の最も重大な腫瘍化の危険性という問題点を克服した新しい幹細胞医療を確立するための研究を進めている。今回の研究期間中に毛包幹細胞による皮膚損傷部や末梢神経、中枢神経損傷部の再生能を確認したところ、末梢神経や脊髄損傷部の再生能が非常に高いことが明らかになった。特に坐骨神経の損傷部の再生能力は非常に高いことが明らかにされた。そのため現在も引き続き臨床応用対象として、毛包幹細胞による末梢神経の再生能力を生かして、植皮皮膚や培養皮膚に組み込んだ感覚能にすぐれた皮膚移植方法の確立を進めている。今後も効率よく毛包幹細胞を組み込む手技の確立と安全性の確認を引き続き行う予定である。さらに、本研究で開発した高効率の毛包幹細胞の分離法を用いて、ES細胞やiPS細胞による臨床応用の最も重大な腫瘍化の危険性という問題点を克服した新しい幹細胞医療を確立するため、毛包全体を保存して幹細胞を分離する幹細胞バンクの確立に向けた検討を進めている。これらの研究成果は次いで行う予定のサルの脊髄損傷部の自己毛包幹細胞を用いた再生医療、そして今後の厚生労働省の認める倫理委員会の同意の下で行う予定のヒトへの自己幹細胞再生医療の臨床応用に向けた基礎研究になると考えられる。
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